それぞれの道1-25
何か言いたくても声が出なくて、目の前の久留米さんの姿は涙で滲んでよく見えない。
視界が悪くなってしまった分だけ、やけに聴力が研ぎ澄まされて彼の言葉が耳を伝ってあたしの心にダイレクトに響いてくる。
「離れるからって、これでお前を繋ぎ止めてるって思われても仕方ないのはわかってる。
でも、卑怯でもなんでもいいから大事なものを失うような真似はもう二度としたくねえんだ。
だから……この先何があっても、お前だけは誰にも渡したくない」
「……うん……」
指輪の入った箱を持ったまま固まるあたしの顔をまっすぐ見据えてから、彼はゆっくりあたしの頬に手を添えた。
「お前の任用期間が終わったら、俺のとこに来てずっとそばにいて欲しい。
そん時は彼女じゃなくて……その……、俺の奥さんとして……」
照れながらも一生懸命伝えてくれる彼に対し、万感交々至ったあたしは、涙が溢れて止まらなかった。
「久留米さん……」
少し疵の付いたフローリングに、ボトボトシミが増えていく。
彼はその大きな手で、あたしの流れる涙を優しくぬぐいながら、
「宗川玲香さん、俺と結婚してください」
と言ってあたしを強く強く抱きしめた。