ハーレム?な少年-4
「それに…」
と、リズはさっきの真面目な雰囲気はどこへやら、ニヤニヤと皆を眺めた。
「さっきからみんなリンのことを貧民だと馬鹿にしているけど、次にリンを見たらきっとそのことを後悔するわよ」
「何で後悔するんですか?」
と、キョウカ。
「ふふ。見れば分かるわよ。あの子…化けるから」
全員が?マークを浮かべていると、コンコン、とやや控えめにドアがノックされた。
「リンね。入っていらっしゃい」
「し、失礼します」
と、緊張気味な声でリンが食堂に入ってきた。
食堂にいたリズを除く全員、特に一度会ったミレイ達は驚愕した。
湯浴みを済ませて垢をしっかり落としたリンは、別人としか言いようがなかった。
馬車の中で数年振りにお腹いっぱい食べ物を食べたとはいえ、全体が痩せた雰囲気は取れていない。
しかし、その中性的な顔立ちはそれに関係なく際立っていた。
ボサボサだった黒髪も、今では絹のようなサラサラの髪へと変わり、薄く引いたような眉と唇、パッチリとしたアーモンド型の目にすっきりとした鼻は、最高の造形品としか例えようがない。
カミラ親娘や侍女達は、誰もが一級品以上の美を備えている。
そんな彼女達と比べても、リンの美は全く遜色ない。
上級貴族の社交界でも、否、世界中を巡ってもこれほどの美少年はいるものなのだろうか。
異性はおろか、同性すらも魅了しかねないこの少年が、貧民街の出だとは誰も思うまい。
比較的男嫌いの揃っているカミラ家の三姉妹と侍女達は、一瞬にしてリンに心奪われてしまった。
男嫌い筆頭のキョウカなどは、あろうことか頬を赤く染めあげ、濡れた瞳で無心にリンを見つめている。
(やはり、私の眼は正しかったわ)
皆の反応とリンの姿を見て、リズは自分の判断が正しかったことを確信する。
しかし、リズにとってもリンがここまで変わるというのは予想以上だった。
ある程度心構えをしていたリズでも、リンの姿には見とれてしまった。
「リン。いつまでも立っていないで座りなさい。」
いつまでも見とれていても始まらない。リズはリンに声をかけた。
リンはキョロキョロと辺りを見て、ミレイの隣りに座る。
当のミレイはリンが座った瞬間、全身を硬直させ顔を更に赤くさせる。
アイリスやカレンは羨ましそうだ。
「さて、改めて紹介しましょう。リン・ナナミ。彼は本日付けでカミラ家の使用人になります。
唯一の男の子になるけど、仲良くしてあげて下さい。
…さあリン、挨拶をして」
「は、はい」
皆の視線に居心地悪そうにしていたリンが慌てて席を立つ。
「リン・ナナミです。…あの…僕がこんな場所にいること、皆さんが場違いだと思っているのは理解してます。僕自身がそう思っていますから。ですが、僕はリズ様に命を救われた恩は忘れません。だから…誠心誠意この家に尽くしたいと思います。
皆さん、よろしくお願いします」
流水のような綺麗な声音で言葉を紡ぐ。
リンが言い終わった後、全員から笑顔付きの拍手が響いた。
皆の顔が物語っている。あなたを歓迎する、と。
「あ…ありがとうございますっ」
天使のような微笑みを見せるリン。
途端に全員のハートを打ち抜き、拍手を強制中断させる。
「え?え?」
いきなり止んだ拍手にオロオロするリン。
そんな小動物のように怯える様も、殺人級に可愛かった。
(抱きしめたい…)
そう全員が等しく思った時、リズが話を戻す。
「さて!では今夜はリンの歓迎会として、立食パーティーを開きます。キョウカや他のみんなも全員参加して大いに楽しむように。それでは準備を始めましょう」
その合図とともに、準備が始められた。