これ、罰ゲームですか?-1
あーっ! もうっ! 寒くてイライラするっ! 全く、 冗談じゃないわよっ!」
「…はぁ…」
例年より少し遅咲きの桜が漸く開花した4月初頭、夜の 緑地公園。時刻は午後10時を過ぎた頃。
辺りは僕らのように面倒を任されたであろう人影がちら ほらとは見えるけど、かなり静かだし暗いしで、ちょっと した不気味さも感じてたり。
不気味と言えば…。 確か何年か前にこの公園の駐車場の車の中で練炭自──
ぅわぁぁ…。思い出したくないことを思い出してしまった 。ヤバいな。ちょっと怖くなってきたぞ。
「もうっ! ほんと最悪よ…。つーか女子社員に普通こん なことさせるかなあ? あの鬼畜幹事共めが…ふざけんなっつーの!」
そんな中、全く空気を読まずして響き渡るは、僕の同僚 である小島さくらの苛立ち混じりの高い声だ。
「あ〜ぁ…自分のくじ運の悪さを呪いたいや…」
「はあ? 何? 私と一緒じゃ不服って事?」
僕を一瞥して、
「てか、盛大に不服申し立てしたいのは、ハッキリ言ってこっちなん ですけど?」
「あっ! いやっ! あのっ! ご…ごめんなさい…」
彼女に聞こえないように小さく悪口を吐いたはずなのに…さすがは地獄耳…。
というより、速攻謝る僕の弱腰丸出しの情けなさに、目からなんか出そうだ。
「あーあっ! マジウザイ! なんでウチの部署には花見なんてめんどくさいイベントがあるんだか! 貴重な休日潰して見たくもないジジイ共の顔見て、飲みたくもない酒飲まされて、一体何が楽しいんだっつーの!」
…そんな事言いながら、去年、しこたま飲んで部署のリーダーの首根っこ捕まえてタチ悪く絡んでたのはどこのどいつだ…。
正解はもちろん、僕の目の前でケンケンと吠えてるこの人なんですけどね…。
彼女はウチの部署にいる唯一の女性社員、つまりは紅一点なわけだが…。とても紅一点とは思えない気の強さで… 。
仕事はかなりできるのだが、口も性格も全く持って可愛いげのない残念な奴だ。
そんな小島さくらとよりによって、恒例のくじ引きによ る花見の場所取り係に任命されてしまうとは…。
(こいつは春から縁起が悪いや…)
自分のくじ運の悪さを盛大に呪いたいですね!
「…あんたさぁ、さっきから何ひとりで百面相して悶えて んの? マジキモ…」
腕組みしながら、小島は引いた笑みを浮かべてなんの躊躇いもなく僕に非道な言葉の袈裟がけを浴びせてくるわけで。
「ご…ごめんなさい…」
翻って言い返す度胸も技量もなく、さっきからこうして謝ってばっかりの僕。
てか、あんたって…。 僕は同僚なのにもかかわらず、名前ですら呼ばれないモブキャラってわけか…。
まあ、仕方ないか。僕は会社でも私生活でも物静か過ぎて存在感が薄いらしいから。 「あー、いたんだ」なんて苦笑いを向けられる事は普通にもう慣れたって感じだし、別に誰かに構って欲しいわけで もないしな。
うん。僕も違った意味でかなり残念な奴だと苦笑い。
「はぁ…」
「チッ、ため息ウザ…」
「…ごめんなさい」
くそぅ…。一々こんな風にチクチクとこいつに詰られる状態が朝まで続くのかと思ったら、嫌でも重いため息が出てしまうのは仕方のない事だと思うけどな。