これ、罰ゲームですか?-2
だだっ広いブルーシートの上。
互いに1メートル以上の 距離を置き、ぽつりと座る僕と小島。 さっきまでギャーギャーと文句言ってた彼女が急に黙りこ んでしまったせいか、急に耳の奥が少し痛むような静けさに覆われて。
静かになったらなったで、なんだか急に不安に包まれるような。だけど、どこか心落ち着くような。
なんとなくの気まずさを感じつつも、目線を少し上にあげたら、頼りない程度のか細い外灯に照らされた春の象徴である満開のソメイヨシノが。
日中は誇らしげで眩しくて、感嘆しつつも僕には眩しさが強過ぎて思わず目を細めてしまうけど、夜の姿は昼間のそれとは違い、蒼白く、粛々として儚げで…。
僕はどちらかというと夜桜のほうが綺麗で好きだなと思う。派手にライトアップされ演出されたものではなく、ふと夜歩きして目に映る、月明かりの下やこうした数少ない 外灯に照らされてる桜がとても好きだ。
「てか、マジで寒過ぎる…」
小島は、自らで両の肩を抱き擦り疲れた声で呟いた。
そりゃ無理もない。日中は温かくなったとはいえ、夜はまだまだ冷えるのに彼女の服装はカットソーの上にペラペラのニットのカーディガンと膝丈のスカートというあまりにも場違いな薄着だから当然寒いだろうな。
「あの…上着…貸そうか?」
勇気を振り絞り、声をかけてみたら、
「結構よ。つーか、あんたの上着奪って風邪でも引かれたら、そっちのほうがめんどくさいし」
わかっていたよ、即拒否の言葉だと。
「風邪か…。引けるもんなら今すぐ引きたいな…」
「ぁあ? なんか言った?」
「…いいえ。なにも…」
僕は小さな嘆息と共に
「何か温かい飲み物…調達してこよう…か?」
と、恐る恐るだか彼女に尋ねてみた。すると 、
「こんな暗い場所に、女性をひとり置き去りにするとか…。 ありえないんですけど。マジありえないんですけど」
また、生暖かな引いた笑みを浮かべて、睨んできた。
「す…すみません…」
あー、もうっ! また謝ってるし! と思いつつ苦笑いしてみたけど、生まれてこのかたこういう状況など経験したことがなく何をどうしたらいいのやら…。
数秒言葉を失い、曖昧な笑みしか出せない僕に、
「こういう時は、一緒に行こうって声かけるのが普通じゃない?」
小島は、やれやれとため息混じりに呟きながら立ち上が ると、
「ったく…、ほんと女心がわからない奴だなぁ…」 パステルピンクのスカートのしわを伸ばすように手で払い、ゆっくりと歩き出した。
「ごめんなさい…」
やっぱり謝ってしまった僕を見て、
「そういうとこ、入社した頃と全っ然変わらないよね、遠山君は」
小島は、脱力気味で笑った。
「え!? 小島さん、僕の名前覚えててくれてたの?」
少々驚き思わず尋ねてしまった僕に、
「は? 入社から六年、毎日会社で顔を合わせて仕事してる人の名前なんて、どうやったら忘れるわけ?」
小島は呆れた顔で大きなため息をついた。