行方不明-1
人間には表の顔と裏の顔がある。
表の顔に戻った理恵は、俺を散々責め立てた。
責任取ってよ!お嫁にいけない!使い古されたセリフの連続だった。
俺はもう会わないといってすぐに理恵の元を去った。
どこか現実感のない出会いと別れだった。
理恵とのごくわずかな生活は儚い夢だったのだろうか、俺は妄想の中にでもいたのだろうか。
パチンコ店で時間をつぶす俺は、毎日つぶやいていた。
「・・・狭間にでも囚われたのか。」
時間の感覚すら薄く、気づけば理恵と別れて3週間ほど経っていた。
「おぉ、そういやよ、ちょいとイイ感じの小説があったんだよ。」
「純文学なんてよまねーぞ?で、どんなのよ。」
俺の背後で打っている中年男性2人の話がふと耳に入った。
「これだよ、これ。貸してやるからまぁ見てみろって。」
「んー、有働由衣????知らねーな・・・。踊る人形?変なタイトルだな。」
「まぁ、見てみろよ、これよ、すっげぇエロいからよ。」
「ほぉ・・・まぁ見てみるわ。」
そのやり取りが耳に入った俺はすぐさま外へ飛び出し、書店で本を探して客などかまいなく読みあさった。
「ぁぁっ!お願い、挿れて・・ください!」
『私は持て余した情動で男を喰っていく。踊り狂う人形のよう・・。』
ほぼ全編SEXをする女の話。どこかひねくれた言い回しとともに。
「ふっ・・・。ははっ・・・!」
思わず吹き出してしまった。
「淫乱な女め・・・。」
力強く本を置くと、俺は再び当てもなくふらふらすることにした。