しつけ-1
事が済み、お互いが服を着ている中、「ちょっと待ってて」などと言われた。待っていると、せっせと着替えてシャワーを浴び終わった理恵が妙に目を輝かせながら小説を持ってきた。
「読んでみて。」
目がきらきらしているのは先ほどの激しい行為のせいなのか、それとも単純に小説を読んで欲しいからなのか、どちらが本当の理恵なのか分からないが、とりあえず差し出された『小説と呼ぶにはいささか薄い本』を読んでみることにした。
当たり前だが文字がずらずらと並んでいる。どうしても前段を読む気にはなれず、パラパラとめくっていく。
どうやら恋愛小説のようだが、飛ばし飛ばしに見ていっても展開が読める。
小説などあまり興味はないが、いわゆるハッピーエンドだろう。
『私、実はあなたのことが好きだったの・・・!』
『良子さん、僕は・・僕も・君の事が好きだった!』
この台詞を呼んで俺は読む気を無くした。いや、この展開は読めていたのだが、どこかに読者の期待を裏切る展開や、面白い要素などがあるだろうと微かに期待していたのだ。
だが、もちろん。しかしてそんなものは皆無だった。
「こんなものが小説か。」
「・・・ひどい。」
「よくデビューなど出来たもんだな。」
「・・・。」
「展開が読めすぎる。これならさっき乱れていた自分のほうがネタになるんじゃないか。」
「・・・。」
耳が真っ赤になっていた。ある意味蔑むつもりだったのだが、理恵の反応には羞恥心しか感じられない。
俺は少し楽しくなり、さらに『この遊び』を続けることにした。
「さっきお前は俺のちんぽをしゃぶっていたよな?そういうのを書いてみたらどうだ?」
「なんで・・・、何でそういうこと言うの?」
「お前の恋愛小説がつまらないからさ。官能小説のほうが売れるだろうさ、有働さん。」
「・・・ひどい!」
本に書かれていたペンネームで遊び半分呼んでみたら、どうにも真面目に怒っているらしい。それなりにプライドはあるようだった。
机に頬杖をついてしゃべっていた俺の前に理恵が顔を近づけてくる。怒っているつもりのようだが、近づいた顔は涙でひどい顔になっていた。ぐすぐすと鼻水の混じった音が聞こえる。泣いているようだった。
「美人が台無しだぞ。」
「・・・馬鹿!馬鹿!馬鹿!」
遊びすぎたようだ。完全に怒りを買った。
淫乱な女の一面と、純粋な少女の一面。
どちらが本当の理恵なのか。
もう寝るからと言って、そのまま部屋へといってしまう理恵。
俺は去れといわれたのか、ここにいて言いと言われたのかが良く分からず、書斎で一夜を明かすことにした。
「お前の狭間はどこにある・・・、なんてな。」