第6話-1
「ナオが子供の頃から男の子っぽいのも、ナオにとっては自然なことなのよ」
「はー、それでナオさんは身体を動かすのが好きだったり、
自分で自転車直しちゃったりするんですね。納得です」
「ナオが子供の頃、
二階の窓から飛び込み選手みたいに飛び出して行って、
トランポリンで回りながら戻って来たときは、心臓が止まるかと思ったわ」
「あぶっ」
「庭に大きいトランポリンを置いてくれたのを、男の子たちと競ってたのよ。
どれだけ回れるか、どれだけ高く飛べるかって。あの時は喝采を浴びたなぁ」
「本当に猫みたいな子供だった。
屋根から飛び降りる前に、マラソンに夢中になってくれて良かったわ」
「ナオさんは子供の頃からカゲキなアスリートだったんですね」
「普通に出来たのよ」
「ナオは子供の頃から女の子にモテてたのよ」
「まっ、やっぱり」
「ちょっと…私のプライバシーも考えてよ。男の人をそういう風には見れないもの。
ゆえを見た時に、ちょっと小さいけどいいなって思ったのよ」
「ナオさん…ロリ…」
「だってかわいいのよ、日本人の女の子は。小さいし、良く気がつくし」
「恭子はお嬢様だったけれど、自由な考え方をして、活発な娘だった。
ナオはますますあの娘に似てきたわ」
「あの、美さきちゃんの身体が女の子らしくなるどころか、
逆に戻ってきちゃっているんですけれど…」
「遺伝的に男性でも女性でもない人は、少なからずいるのよ。
『アルス・マグナ』を記すくらいの文明だから、
抜かり無くデザインされていると思うけれど。
自然界では多様性で受け入れられるけれど、人間社会では認められにくいわね」
「同性間から異性もできるの?」
「出来るようになった。
でも、高速なDNAアセンブラ(仮称)の開発が待たれるの」
「スキャナの次はプリンタって訳ね」
「そう。いよいよ人類が直接に、高速に塩基配列を決定するの。
あらゆる分野に革命をもたらすわ。
で、そのDNAアセンブラ(仮称)の開発で、数理物理を学ぶ若い見習いが必要なのよ。
そこでナオ、あなた頃合いをみてこっちに戻ってきなさいよ」
「なに?私?私なりのテーマもあるんだけど?」
「続けなさいな。
でも、その方面で、新しい結果が出せる程ではないんでしょ?」
「ぐっ」
「遺伝子工学の分野はこれから事業の柱になっていくの。
国家プロジェクトになっていくわ。ゆくゆくはあなたに任せたいのよ。
人類が生命を創成するのよ。他人には任せられない」
「…考えておく」
「そうして。その二人のことは手配しておくから。じゃあ、またね」
ウインドウが閉じます。
「マリーさん、さすがですねー」
ナオさんは、しょっぱい顔をします。
「実務で鍛えられてる人にはとても敵わないよ。
行政機関や国を相手にしている人だもの。
生命を創る…か。究極だぁ。生物の設計図を手にするって、こういうことなんだ。
ゆえは、私との子供は、男女どちらがいいの?」
「とうぜん、女の子ですよ。
女同士から男が出来たらおかしくないですか?キモチワルイですよ」
「そうだよねぇ」