第5話-1
真理乃さんと菜々さんは、子供を作ることに決めました。
二人それぞれの卵子を取り出して、
遺伝子結合をして、菜々さんのお腹に入れるそうです。
「私の時には不適合が出て、何度か堕胎が行われたらしいけれど…。
考えるだけで恐ろしいわ」
ナオさんが身震いする姿は初めて見ます。
「中絶•堕胎にことのほか保守的な、カソリックの国で育ったんだもの。
試験段階だったとはいえ、すんなりとは受け入れられないよ。
私は生まれながらに、いろんな業の上に在るのよ。
そこら辺のとこをマリーに聞いておきたいわね」
マリーさんに、オンラインで話を聞きます。
「今は技術が向上していて、ナオの頃とは違うの。順を追って説明しましょう。
採取した二人の卵子から、遺伝子結合をして、胚にする。
着床前診断をして、良品の胚を母親の子宮に移す。
着床前診断を厳しくするから堕胎なんてことにはならないの。
で、検査で問題があれば、戻って遺伝子組み換えをする。
ナオの頃のように、母体に負担をかけることは少ないわ。
実はここが『アルス・マグナ』の凄いところよ
膨大なタンパク質間の、相互作用ネットワーク、
各種生命現象との関係が表現されているの。
形質の決定に関する、複雑な遺伝子の関与が解明されているの。
これはヒトだけの話ではないわ。
あらゆる生物のゲノムデータの解釈が終わっているの。
これでも膨大な知識のほんの一部でしかないのよ。
恐らく美さきちゃんは、どうやるのか見当もつかないけれど、
これを理解できるのよ」
「だって、美さき」
「んあ?…」
「人が妊娠をしなくても済む研究も行われているの。
合成した胚を、異種生物の胎内で育てるの。
代理母が必要無くなるわ」
「それって、ヒト…ブタ?」
「?」
「正解」
「ゲッ!」
「良く勉強してるわね、キマイラよ」
「なんでもござれね」
「免疫抑制は製薬部門の柱のひとつよ」
「私は恭子との間の娘が欲しかっただけだけだから、
遺伝病、障害の欠陥因子を排除した上で、
遺伝子の改変はあまりしていないの。
ナオは、スーパー健康体ってことね。
不老長寿だったり、モンスターに変身は無しよ。
細胞の癌化はやはり怖いし、自分一人だけ長生きは不幸だわ」
「そりゃどうも」
「男女の産み分けも可能よ。
性的指向が男性に向くか女性に向くかも、コントロールができるの。
もちろん育て方や社会環境で、全て期待通りになるとは限らないけれど」
「ひょっとして、ナオさんも?」
「なっ、なにっ?私ってそうなの?」
「そうよ。レズビアンの間の子が男だったり、男性に興味を持ったら不幸じゃない?」
「そうよ、って。そうだけどさぁ。本人の同意は無しなの?」
「産まれてからのあなたの人生はあなたのものよ。
私は、あなたが生き生きとしてくれれば、それでいいの。
あなたは、私が愛して、短くして世を去った、恭子の分まで生きるの。
私はあなたの人生になるべく干渉しないように、
成人するまではあなたから離れていたのよ」