第3話-1
ダンのガレージには工具類が揃っていて、簡単な部品などは自分で作ってしまう。
「あまり重くないほうがいいな」
ダンはブランクの鋼棒を取り出して、グラインダーで切断する。
旋盤に材料とナーリング工具をセットし、ハンドルを回してお互いを近づける。
「電源はここ」
コンセントを差し込み、メインスイッチをパチンと押し込む。
ゴン、ゴウン、ゴウン
旋盤が、重い音を立てて回り始める。
ダンは防塵ゴーグルをかけてハンドルを回す。
「ナーリング加工でグリップ部を作ってから、
卓上グラインダでバランス取りの肉抜きをする。仕上げで先端を尖らせる。
大切なのはバランスだ。
投げる腕の上達につれて、ナイフに対する要求も変わるから、
自分に合うものを試行錯誤していくんだな」
「うん」
「じゃあ、工具の使い方を教えよう。
大怪我をするから、教えた手順は必ず守るんだ。いいね?」
「はい」
「ダン、見てて」
「何度も言うが、コントロール出来なくなる前にナイフを捨てるんだぞ」
「はいはい」
ナオはトランポリンの上で跳ねて、反動をつける。
「先ずは一本」
背中着地から、飛び上がりざまにスピンしてナイフを放つ。
トスッ
「おっ、真っ直ぐ刺さる。エレガント」
背中で着地し、飛び上がる。
トスッ、トスッ
「ウヘッ、ワンジャンプで2回放つのか」
「逆回転!」
トス、トスッ!
「右手!」
トストスッ!
トトッ!
「力を入れない代わりに、回転の速さと正確さを上げたんだ。
右手ならワンジャンプで3発打てるよ」
「ビューーティフル。免許皆伝だよ。参ったね、ナオのほうがテクニカルだ。
フロントフリップは試したかい?」
「うん、力が乗るね」
「ナオでも車に刺さるんじゃないかな?」
「オーバーキルになっちゃうよ。護身術なんでしょ?カジョーボーエーだよ」
「ん?…そうだな。どうもいかんな」
「と、まあ、ナイフの思い出はダンの思い出なのよ。
なによ、二人ともヘンな顔して」
「ナニソレ…フツウじゃないよ…」
「それって、ナオさんが私たちくらいの年頃ですよね?」
「そうよ」
「ダンさんっておじいさんなんでしょう?なんでそんなに元気なんですか?
走るのも教わったんでしょう?」
「退役して、トレーニング時間が増えたって言ってたよ。
若い頃は、オリンピックを取るか、軍務を取るかで悩んだって人だからねぇ」
「えええ」
「ダンのトレーニングはハンパないもん。
軍務でヨーロッパアルプスで訓練してたくらいだから。
イギリスには高い山が無いのよ」
「ナオさんセックスしよう…今すぐ…」
「まっ、美さきちゃんたら」
「相変わらず、美さきのツボは解りにくいわね」