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BLACK or WHITE?
【幼馴染 官能小説】

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−4−-3

「誤解です、完ッ全に誤解なんですよ……」
翌日の佐原家の食卓。そこには、もう本当に勘弁してくれと言わんばかりに、謝罪している孝太郎の姿があった。
昨夜の椎奈の迷惑な大声は、近隣住民だけでなく、下の階で洗い物をしていた姉妹の母にもばっちりと聞こえていた。しかも、杏子が悪ノリして、椎奈の誤解を肯定してしまったものだから、今や彼は立派な婦女暴行未遂犯のように仕立て上げられてしまったのだ。
母は孝太郎がそんな事をするはずがないと信じているので、優しく彼を宥めているが、椎奈は食事中、終始軽蔑したような瞳で彼を見下しており、杏子は杏子で、外見では被害者のように悲痛な面持ちをしながらも、著しく周囲の評価を落とした彼を心中で嘲り笑っている。
「ごちそうさま」
ぼそっと椎奈は告げると、さっさと夕食を終えて部屋に戻った。実際に孝太郎にあんな目に遭わされているため、簡単には彼の潔白を信用できなかった。
(ったく、あたしだけでなく、杏子にまで手ぇ出すなんて、アイツ……!)
そう苛立ちながら悪態を吐いていたが、ふと、彼女の中に1つの考えが思い浮かぶ。
血の繋がった自分がいうのも身内の贔屓目のようだが、妹の杏子はなかなか見掛けないような美少女だ。色素の薄い栗色の髪に、ぱっちりとした目元を縁取る長い睫毛、その中の宝石のように輝く大きな瞳、白い肌に映える紅い唇に、ほんのり色づいた薔薇色の頬。高すぎず低すぎずといった身長も、小柄でまた愛らしい。下手なアイドルなんかよりもよっぽど可愛いし、実際2人で買い物に行った時も何度か芸能事務所にスカウトされた事があった。それに加えて、優しく健気で控えめな性格と、姉の椎奈が溺愛し、自慢したくなるような妹だった。そんな妹と幼馴染として長い間一緒にいる男が、惚れないはずがない。
(もしかして、前に言ってた孝太郎が好きな女の子って…杏子なのか…?)
少し喉が渇いて、再びリビングの方に降りてみると、
「まぁ、孝太郎くんだったらいい子ってわかってるから、別に間違いがあっても構わないけどねぇ」
という、おっとりした母らしいのん気な言葉と、
「やぁだ、お母さんったら何言ってるの!」
と、恥ずかしそうにしている杏子に、反応に困って赤面している孝太郎の姿。もう、親公認の仲同然らしい。その様子を見て、また正体不明の痛みが、椎奈を襲う。胸の一番奥深くを、細い針の先でちくちくと突かれているような、ほんの些細なものだが、その痛みは何故か鈍く彼女を苛み続ける。
(あたし、何も気付いてなくて……)
馴れ馴れしく孝太郎と接しすぎて、杏子を傷付けていただろうか?こういう事に疎すぎる自分自身を責めつつも、生まれつきのお姉さん気質で、世話焼きな彼女の血が騒ぐ。
(…よしっ)
自分にとって最愛の妹と、一番長く近くに居る幼馴染。どちらもかけがえのない、大切な存在。その2人が幸せになれるのならば、一肌でも二肌でも脱いでやろう、そんなお門違いな使命感に燃えていたのだった。




「孝太郎……」
部活が終わった後、椎奈はそっと、彼に声を掛けた。
珍しくしおらしい彼女の声音に、彼の心臓がどくんと、跳ねる。両親が不在の間、あの日以来ずっと彼女の家で一緒に夕飯をごちそうになっていたが、結局椎奈とは気まずくてあまり話ができていないままだった。
「何?」
振り向いて、極めて普通を装う。
「あの、さ。今週の日曜って暇?」
「え?」
「新聞屋さんが映画のタダ券くれたんだけど、良かったら行かないか?」
俯き加減でそう告げる椎奈が、孝太郎には照れているように見えた。彼女と2人でどこかに行く事は今まで何度もあったが、こんな風に誘われた事は一度もなかった。新しい展開への期待に、彼の胸の鼓動が、ますます早くなる。
「……あぁ、何も予定ないから、いいけど」
本当は舞い上がりたい程嬉しかったが、それが表に出ないよう必死に押し込める。
「そうか、良かった!じゃあ、12時くらいに映画館の前で待ち合わせな」
「え?一緒に行かねぇの?」
家が隣同士だというのに、わざわざ現地集合にする必要もない。少し訝しむような視線を彼女に向けて問うと、
「あのっ、ちょっと、その前に用事があって行くところが……とにかく、そういう事だからよろしくな!」
言い終わるや否や、チケットを半ば無理矢理手渡して、椎奈はそっとはにかんだ。
彼女が道場を去った後、彼は思わずガッツポーズを取る。結局、彼女には杏子の件で未だに誤解されているかもしれないし、自分の気持ちもはっきり告げていないまま、宙ぶらりんな状態だった。依然としてどことなくぎこちないままだった、この曖昧な状態をどうにか打開できるかもしれない。
―――そして、待ち望んだ週末。彼は意気揚々と、いざ待ち合わせの場所に来てみると、約束の時刻をとうに過ぎても全く姿を見せない椎奈の代わりにいたのは……
「何で孝ちゃんがここにいるの!?」
耳を劈くようなヒステリックな声でそう言われても、彼の方だって同じ気持ちなのだからどうしようもない。
「知らねーよ、俺だって椎奈に誘われて来たんだから」
「お姉ちゃんに……?」
こういった事には妙に勘が働く杏子は、今の状況で姉が何を仕組もうとしたのか、姉の思いが手に取るように理解できた。
「……孝ちゃん、私帰るから、悪いけど映画1人で観てきてくんない?」
「1人で?なら、いらねぇから、これ椎奈に返しといて。また今度2人で行ってこいよ」
孝太郎も沸々と湧き立つ苛立ちを抑えきれず、つい無愛想に、杏子にチケットを突っ返してしまう。
「うん、わかった。ありがと……ごめん、それじゃあ」
それだけ短く告げると、杏子は足早にその場を去った。


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