氷炎の魔女と黒狼の旅記録-1
*人狼姿での獣姦表現がありますので、苦手な方はご注意ください。
*証言者1 シン国・ホウライ山の麓在住の老人
「わしが柴刈りをしていたらのぅ、真っ黒な狼が白い髪のめんこいおなごを背に乗っけて、ホウライ山へ駆け上っていくのを見たんじゃ。
あの山には宝の枝があると言われているが、最近は近づく者もおらん。
おっかない猿妖怪が、手下の豚妖怪や河童と共に住んでいて、山に入る者を喰ってしまうんでな。
てっきり、狼も妖怪の新しい手下で、おなごはさらわれてきたと思ってのう。わしは急いで助けに行ったんじゃ。
――ん? 疑っとるのか。これでも若い頃は腕利きの猟師と言われ……(中略)……
そしてわしは、苦労の末に妖怪の巣を見つけ、凄まじい死闘の末に、ついに決着がついたんじゃ!
白髪のおなごは、猿妖怪を亀甲縛りにして転がし、高笑いしとったわ。
――なんじゃ、その顔は。いつ、わしが倒したと言ったかの。手下の妖怪? あれは黒い狼がやっつけとったよ。
ふー。実に手に汗握る闘いだったわ。
ともかく妖怪の巣の奥では、中心に宝玉の木が生えた魔法陣が大事に守られていてのう。あれが妖怪どもに力を与えていたんじゃな。
白髪のおなごが宝玉の木を引き抜くと、妖怪たちはただの年老いた獣になっちまったわい。
魔方陣も消え、おなごはあっという間に黒狼と去っていったんじゃ。
――ほほう。あれが噂になっとる、氷炎の魔女かい。
そうさなぁ、わしも若い頃は色々と冒険をしたもんじゃわい。まぁいいから、聞きなされ……(以下省略)」
*証言者2 イシュターブル王国 高級オークション会場の関係者
〔――困りますね。顧客のお話はちょっと……。
――わかりました! わかりましたから! まったく……ここだけの話ですからね! 私の名前と顔は出さないでくださいよ。
氷炎の魔女殿は、当オークション会場にて『火鼠の毛皮マント』を落札なさりました。
あれは非常に珍しい品ですから、何人もの富豪や王族と競り合いになりました。まだ少女にみえましたが、よくあれだけの大金を用意できたものです。
――え? はい。こちらのオークションへの参加は、それなりの紹介状が必要となります。
彼女が持参されたのは、バーグレイ商会の紹介状でした。あそこの紹介状は、王家の紹介状と同等に扱うようにと、陛下から命じられております。
――おや。なんと、ご存知でしたか。ええ。陛下はプライベートでは私の友人です。
私達が幼少の頃、王家は骨肉の争いが絶えず、陛下も叔父に処刑される寸前に、やっと逃げ延びたのです。
陛下の少年時代は、もともと不遇なものでしたが、あれですっかり王族という血筋に辟易してしまいましてね。しまいには、山奥に一生引き篭もって暮らすなど言いだす始末でした。
バーグレイ商会のアイリーンと会わなければ、陛下が王位を取り戻すこともなかったでしょう。
……そうそう、氷炎の魔女殿に紹介状を書いたのは、アイリーンの息子チェスターでした。彼も、ここへ商品の買い付けにきたことがありますよ。
本当に陛下の若い頃に……コホン!
失礼しました。これは魔女殿のお話には関係ありませんね。お忘れください〕
(都合により、音声は変えてあります)