水族館-4
「はい、着いたよ。ここでーす」
突然光を取り戻した俺の視界に映ったのは、水族館だった。もっと長く歩かされるのかとうんざりしていたので、意外に早く着いて面食らってしまった。長いよりはいいけど。
「覚えて……る、かな。ここ」
「………………あっ、思い出した。ここって、前にも来たことあったよな、確か」
すぐに思い出せなかったのも無理はない。この水族館に来たのは小学生以来だからだ。それもまだ里保が1年生か2年生の時だったので、下手をすればもう10年ぶりくらいになるかもしれない。
「覚えててくれたの?! お兄ちゃん、入っていきなり泣き出したんだよ、気持ち悪いよ怖いよー、って。中が真っ青で海の中みたいだって」
「里保、余計なことを言わなくていい。思い出したくない記憶まででしゃばって出てきちゃったじゃないか。だって、本当に怖かったんだから仕方ないだろ……」
「今度はもう怖くないよ、私がついててあげる。中に入ろう」
「ひ、引っ張るなって、ちゃんと歩けるから」
小さかった頃の話なので、今はもう別に怖くはない。しかし苦手ではある。水槽の向こうで泳いでいる魚が可愛いとか綺麗だとか思うよりも、ガラスが破れて水が入ってきたらどうしようとか、そういう変なことばかり考えてしまうのだ。
微妙に足が重い俺をよそに手を引っ張り気味で先に進む里保の背中が踊っている。妹の事は好きなんだけど、趣味は合わないな。これはなかなか重要な要素だと思う。だが、入りたくないとは言えない。お兄ちゃんの辛いところだな。
「わぁ…………見て、お兄ちゃん、あれすっごい綺麗!」
里保の指差す先には、黄色い熱帯魚の群れがいた。正直大した事はないだろうなと思いながら目で追ってみたのだが、思わずそのまま見いってしまった。言葉を繰り返してしまうけど、里保の言う通り綺麗だった。ひれを動かして泳ぐ姿は、ただ単純に美しい。
魚と言えばイメージするのは売られている姿なので、こうしてちゃんと生きているのを見るのは新鮮だった。まだ水族館の中を全然見てないけど、里保が好きな理由が分かった様な気がした。
「あんなちっちゃい魚でも、生きてるんだよな」
「うん……」
なに当たり前の事言ってんの、と笑いながら返事するのかと思ったが、里保は完全に見とれていた。もしも今ほっぺをつついたら、いい反応が見られるかもしれない。やってみようかな、と迷っていたら、繋いだ手を更に強く握られた。
もしかしてやろうとしている事を感付かれたかと身構えたが、どうやら次の所に行きたかったらしい。俺を引っ張ろうとしただけだったので、とりあえず胸を撫で下ろした。ちょっと残念だけど。