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きっとそこには何かがあるから
【青春 恋愛小説】

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きっとそこには何かがあるから-3

「あ、名前は?」

あたしは手を背に回したまま体だけを少し離して答える。
瞳はしっかり彼を捉えて。

「菅原鶴羽」
「ありがと。鶴羽ね。俺は高宮和志(かずし)」
「ありがと、高宮くん」

すると彼は「どーいたしまして」と言って再びあたしを抱き寄せた。
あたしも素直にそれに従う。
抗う必要性なんてどこにもなかった。
ただただ、幸せだった。
まだ会ったばかりのこの人の腕の中で。
とてつもない安心感を覚えているあたしが居て。
すると、そんなことを暢気に考えていたあたしの頭上で彼が悲鳴をあげる。

「あぁぁぁぁ!やべぇ!もうすぐ部活だ!」
「部活?」

彼の胸にうずめていた顔を上げて彼を見つめる。

「俺、バレーやってんだ。遅れるからもう行くな!」
「あ、うん・・・」

少し寂しかった。
でも迷惑かけちゃいけないからそう答えた。
引き止めるなんて、出来ない。

「そんな顔するなって・・・」

彼は少し呆れ顔。
苦笑いを顔に浮かべている。
嫌われた・・・?

「・・・これぐらいで嫌ったりなんてしねーよ。メアドと番号、教えて。持ってんだろ?ケータイ」
「うん!」

なんであたしが嫌われたかもしれないって思ったの分かったんだろう。
不思議な人。
そんなことを考えながら先生の机にあるメモ帳を一枚拝借して番号とメールアドレスを書き、それを彼
に渡した。

「おっけ、じゃあ部活終わったらメールするから」
「うん」

あたしの返事を聞くと彼は「じゃ」とだけ言って保健室をあわただしく出て行った。
嵐のような出来事だった。
そして彼と入れ違いで先生が帰ってきた。

「高宮、来てたみたいだけど?」
「はい、足にケガしちゃったみたいで処置をしておきました」

あたしはいつもどおり笑顔でそう答える。
ほら、あたしはいつもどおり振る舞える。
あたしがあたし自身を乱してしまうのは彼の目の前だけ。
何故?
その答えを、知りたい。
あたしは彼が出ていったドアの向こうを見てそう思った。


《了》


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