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5千円のハグ
【その他 官能小説】

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エピローグ-1

高橋香は土門尚美と泉芹菜と共に病院を出た。
土門は高橋の顔を見ながら笑いかけた。
「カオル、あんたの言う通りだったね。あのおじさんが遠坂さんだったんだね」
すると泉芹菜が驚いて言った。
「何言ってるの、ナオミ。あんただって、あのおじさんがそんなに良いことしてくれる筈がないって言ったじゃない」
すると土門の代わりに高橋が答えた。
「わからなかったのかい? あのおじさんが必死に嘘をついていたのを。」
「うそだったのかい? 騙されたのかい? なんか腹立つなあ」
「良いじゃないか。騙されてやろうよ。あのおじさん何度も自分が悪いって謝っていたけれど、私たちだって大人じゃなかったけど、金に目がくらんで大事なものを差し出したのは事実じゃないか。
それなのにあのおじさんだけのせいにするのかい?」
「そ……そうだけど。私達は3人とも家が貧乏で、お金に目がくらんだのは仕方なかったんだ」
「しかたなかった? 本当にそうかなあ。でももう良いじゃない。法的にはどうか分かんないけれど。
あのおじさんは私たちに十分償ってくれたんだから」
泉は目を白黒させた。
「どうして? それは遠坂さんに言われた通りしただけでしょう? 自分の意志で償ったことにはならないんじゃあ……」
高橋はにっこりと笑った。
「私は、ここに来る前に調べたんだ。どうしてあそこに偶々おじさんが通りかかったのか? どうして自分は強盗に襲われたと嘘をついたのか不思議でね。」
高橋は手帳を出してそれを読み上げるようにした。
「その1、彼の預金通帳には何千万もの貯金がある。それは3年前に宝くじに当たった賞金だということ。
その2、彼の通帳に外国からお金が振り込まれたという事実はない。
その3、彼の生活は実に質素で生活の為には貯金は使われていない。
使われたのは全てやまびこスクールへの寄付や私たちへの奨学金などの援助のときだけである。
その4、彼はインターネットの知識を耳学問で知ってはいるが、実際にはやっていない。つまりパソコンはおろか携帯も持ってはいない。
家に電話さえ引いていない。だから遠坂瑠衣という女性とネットで知り合うのは不可能である。
その5、私たちが中央噴水に集まった日2人とも元気だったのがその直後に入院している。あまりにも偶然が一致しすぎるってこと。これは坂井さんのミスね。遠坂さんの立場なら別に入院のことを手紙に書く必要はなかったんだから。
その6、『遠坂瑠衣』という名前をひらがなに直すと『とおさかるい』だが、それを並べ変えると『さかいとおる』つまり『坂井徹』というあのおじさんの名前になる。つまり同一人物であるということなの。おわかり」

「じ……じゃあ、どうしてあんな嘘を言ったの? 良いことしてるんだから隠す必要ないんじゃないの」
「でも、私たちがどう思うかってことよ。ずっと恩人だと信じ続けてた人が女でなくて男で、しかも私たちの人生を狂わせた一番憎い男と同一人物だと知ったら」
「嫌だよね。なんかぐれたくなるね。」
「それが嫌だったんだよ。ずっと遠坂さんが良い人だって思い続けて欲しかったんだよ、私たちに」
泉は大きく息を吸い込んだ。
「そ……そうかあ、だけどあの最後の嘘には驚いたなあ。だってあれは咄嗟についた嘘でしょう? 咄嗟にあんな筋道の通った嘘をつけるなんて天才的な詐欺師だね」
そのとき土門が笑って泉の肩を叩いた。
「どうしてあんな上手な嘘をつけたと思う。自分の為についた嘘じゃないからだよ、きっと」
それを聞いて泉はやっと気がついたように大きく頷いた。
「そうか、ほんとうに良い人になってたんだね、あの坂井さん。そうか……それだったら……わたし」
高橋も土門も泉の方を見た。
「「わたしが何だって?」」
「今度は無料でディープキス、プレゼントしようかな」
その後泉が2人にど突かれたのは言うまでもない。

 
 
                 完 
 


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