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5千円のハグ
【その他 官能小説】

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M市で-1


そうして2年の月日が流れたんや。
ある日こんな手紙が3人の連名で届いた。
『遠坂瑠衣さん、長い間ありがとうございました。お借りしたお金はどんなに時間がかかっても必ずお返し致します。
ところで一度も貴女とお会いすることがなかったのはとても残念でなりません。
私達は思うのです。遠坂さんには何か人前に姿を現すことを自粛する理由があるのだと。
きっと善いことをなさっていることを隠したいという奥ゆかしい方なのだろうとそう思っています。
それで、私達は相談しました。M市の中央噴水の前で○月×日△時に集まろうと。
私たちの姿は画像や写真で何度もお見せしているのでお分かりと思います。
そこでお願いがあります。この時間にこの場所まで来て下さいませんか。
そして私たちの姿を生まで見て頂きたいのです。
そしてできれば名乗らなくても良いので声を掛けてください。
それができなければ私たちの前を通り過ぎて下さい。
そしてどの方がそうだったのか、後でお手紙でヒントを下さい。
何故なら私たちは貴女のことを忘れたくないからです。
恩人であるあなたのことを心に深く刻み込んでこれからずっと生きて行きたいからです。
どうか私たちの我儘な願いを聞いて下さい。』

ワイはこれは何とかしなきゃいけないと思った。彼女達はワイの虚像である遠坂瑠衣を心の支えにするために、その姿を目に焼き付けておきたいと言っているのや。
そしてその日が来たのや。
ワイは離れた所から望遠鏡で彼女達を見ていた。中央噴水の前にはたくさんの人が行き来していたんや。
ワイは3人の姿をレンズの中に捉えて不思議な感動を覚えたよ。
3人は辺りをしきりに見ていた。周囲の人……特に年配の女性をしっかり目に焼き付けているようやった。
そのとき1人の年配の女性が彼女たちに話しかけて来た。多分道を聞いているのかもしれない。田舎から出て来たおばさんと言った感じだ。
その女性は話が済むと、立ち去った。その後姿をじっと食い入るように見る3人。
ところがしばらくするとまた別の女性が3人に話しかけた。
先ほどの女性とはタイプの違う女性だ。快活で人懐っこいおばさんだ。
なにやら楽しそうに話しかけている。どこから来て何をしてるのかとでも聞いているのだろうか。
その女性も手を上げて去って行く。それを見送った後3人は額を寄せ合ってなにやら相談し始めた。
恐らくどっちが遠坂さんだろうとでも話し合っているのだろう。
すると今度はサングラスをかけた東洋系の外人のような女性が3人に話しかけた。
ワイは幾らなんでも少し多すぎて不自然かなと思ったが、金を出して雇ったエキストラの俳優さんたちだから、足がつくことはないと思ってるのや。
その後も2・3人様々な女性が3人の前に現れた。共通することは3人に自分を印象付けるように接するということや。
だから3人の前でバッグの中の物をばら撒いてしまって、拾うのを手伝わせた女性もいた。
変った演出はキャンディを入れた箱を抱えて配って歩くおばさんや。
そのおばさんは3人だけでなく、周囲の人にも配って歩いていた。
時間がそろそろ来たので3人は時計を見てそこから離れそうな素振りやった。
ワイは後で手紙で書く積りだ。貴女たちの前に現れた何人かのうちの1人が私ですと。
だが、ワイは最後に彼女たちに嘘をつくことになる。
偽物を見せて、架空の人物を本物だと思わせるってことやから。
そうやほんのチラッとでも彼女たちの視界に入って、ワイの姿を見せておかなきゃ彼女達の願いを果たしたことにならないのや。
ワイは女優のエキストラがあったから殆ど目立たないと思ってワイ自身が一回だけ3人の前を横切ろうと思ったんや。
そして後で手紙で告白するのや。『実は私は男性です。約束の場所にほんのちょっとだけ姿を見せて通り過ぎました』と。
勿論憶えてないと思うけど、見せたことは事実なんやから3人の願いを聞いたことになる。
ワイは計画を急遽変えて、人混みに紛れて彼女達の方に歩いて行ったんや。
そうやほんの一瞬、3mくらいまで近づいて横切ったんや。 
でもちゃんとワイのことが視界に入っているか不安になって、ちょっとだけそっちを見てしまったんや。
するとな……なんとワイはカオルちゃんと目を合わせてしまったんや!
ワイは目を逸らしたが、カオルちゃんは他の2人にワイのことをなにやら喋ったみたいやった。
ワイは早足でそこを去った。だが3人ともワイのことを追いかけてくる気配がした。
 


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