一人目の相手-1
***
―― 部屋の声が外に漏れないように、シャルは防音の魔法をしっかりとかけ、ソワソワと視線を彷徨わせる。
無言のシャルに焦れたように、ロルフが口を尖らせた。
「だいたい、俺はともかく家にくらいは連絡入れなよ。サーフィおばさんだって心配してたんだぞ。シャルが幼稚な苛めに負けるはずはないけど、仕返しをやりすぎてないかって」
「……ちゃんと手加減はしたわよ。帰ったら、お母さまに言ってやって」
信用がないのは、幼い頃からの破天荒さのツケで自業自得だが、不貞腐れて頬を膨らます。
「冗談だよ。おじさんもおばさんも、本当に心配してる」
ロルフは表情を和らげたが、一瞬後には悲しげに声を落とした。
「シャル……俺に遠慮して断れないから、こんな風に飛び出したのか?」
「そうじゃない……けど……」
「じゃあ、どうしてだよ。シャルは昔から、何でもはっきり言ったじゃないか。俺は、そんなシャルが好きなんだ。だから、俺の申し出が嫌だったなら、ちゃんとそう言ってくれ」
もう一歩詰め寄られ、後ずさるとシャルの背中が壁に当たった。呼吸が早く浅くなり、息が詰まって苦しくなる。
しかし、傷ついたようなロルフの表情を見ていると、切ない……というより、次第にムカムカと腹が立ってきた。
「い、嫌じゃない……から、困ってるのよ!」
背の高いロルフに対抗するため、つま先だちになって顔を上げ、キッと睨む。
はっきり言えないから、こんな手段で隣国まで逃亡したのに!
ロルフこそ、なんだってそんなに簡単に、幼馴染を失うかもしれない賭けに挑めるのか。
シャルは、賭けられなかった。
ロルフが大事すぎたから、自分の意外な方面を見て落胆される可能性が、たとえ0.1%でもあるとすれば、挑みたくなかった。
でも……そんなにお望みなら、もういっそ全部ぶちまけてやる!