二色瞳の留学生-1
ロクサリス王国の魔術師ギルドは、王都の一部ではあるが、それ自体が一つの小さな町として機能するほどだ。
高いレンガ壁に囲まれた敷地内には、いくつもの高い搭や荘厳な建物が立ち並び、飲食店に各種の店が揃う。図書館には、一生かかっても読みきれないほどの本が揃い、閲覧制限のある貴重な魔術書も多い。
魔法使いは大陸の各国にいるが、ここで『老師』と呼ばれるのは、大陸魔法使いの最高峰と言われていた。
魔術ギルドは、もちろん魔法使いの育成を行っているが、薬草栽培と薬品開発にも力を入れていた。広大な魔法の温室、設備の整った大規模な工房などは、そのためだ。
背の高い棚が整然と並ぶ貯蔵庫には、ありとあらゆる薬の材料が納められていた。大陸の各地から集められた薬草、蜜蝋・蜂蜜・魚のゼラチン・様々な獣の骨、牙に毛皮に角・サンゴ・硫黄、雪花石膏・砒素……その種類は軽く万を越す。
これほど充実した貯蔵庫は、大陸に二箇所しか存在しない。
ここと、隣国フロッケンベルクの錬金術ギルドだ。
「……ローズウォーター一瓶、首吊り木の乾燥根100グラム、空飛び魚のヒレ30グラム、発光きのこ一袋、……」
貯蔵庫の細い通路を歩きながら、シャルロッティは手にしたリストの材料を淡々と読み上げていく。品質変化を防ぐために、貯蔵庫には魔法灯火も最低限の明るさしか許されない。無数の棚から漂うさまざま芳香が入り混じり、独特の匂いを発していた。
シャルの歩みにあわせ、二つに分けて高い位置で結んだ白銀の髪が揺れる。垂らせば背の中ほどまである艶やかな髪には、水色と赤の細いリボンを二重に飾っていた。
籠を持って隣を歩く魔法使いの青年は、指定の材料がある棚で彼女が歩みを止めると、あわてて材料を籠に入れる。そして留学生の無表情な横顔を、こっそり眺めた。
シャルロッティ・エーベルハルトは、三ヶ月前に、フロッケンベルク王国の錬金術ギルドから、交換留学生としてやってきた、十六歳の少女だ。
小柄で華奢な身体つきをしており、濃紺のワンピースの上に大きめの白衣を袖まくりして羽織っている。白衣の胸元には、錬金術ギルドの紋章と、交換留学生の身分証ブローチの二つをつけていた。
顔立ちは、職人が丹精を込めて彫った天使の彫像のように整っており、普段は無愛想といっていいほど感情を表さないが、微笑めば一目で魅了されるほど愛くるしい。
大陸には珍しい白銀の髪に加え、瞳は左右がそれぞれ氷色と炎色に異なる。
風変わりで美しい留学生は、初日から魔術ギルドの男性たちの間で、大いに感心を集めていた。