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氷炎の魔女・若き日の憂鬱
【ファンタジー 官能小説】

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二色瞳の留学生-3

 貯蔵庫の管理者に籠の中身を見せ、スラフとシャルは実験棟へ向う。しかし、渡り通路の途中で、酷い異臭が漂ってきた。周囲の人々も鼻をつまんでいる。
 悪臭は、芝生庭を挟んだ寮棟の方角から、徐々に近づいてくるようだった。同時に、何人もの女性が泣き喚く声も聞えてきた。

「うぇっ、なんだこれ、誰か調合に失敗でもしたのかよ」

 生ゴミと汚物の入り混じったような強烈な匂いに、スラフが顔をしかめると、不意にシャルがクスクスと笑った。

「いいえ。大成功よ」

「え?」

「まったく、ロクサリスの留学生いびりは凄まじいって聞いたけど、あれじゃ子どもの悪戯ね。でも、いい加減に飽きてきたから、まとめてお返ししておいたの」

「シャ、シャル……あ、あれ?」

 微笑むシャルロッティはとても可愛いのに、なんというか……心なし、とても腹黒く見える。
 その時だった。マスクをした医療班たちが、急いで担架を運んで行くのが見えたのは。

「いいっ!?」

 担架は四つで、それぞれに乗っている『生物らしきもの』を見て、スラフは目を剥く。
 魔術ギルドのローブと、若い少女らしい服を着ているが、全身が水死体のごとく膨れ上がり、そこかしこに出来たイボからは、悪臭を放つ膿みをドロドロと垂れ流している。

「命に別状はないし、数日で腫れも引くけれど、三ヶ月は匂いが抜けないはずよ」

「シャルがやったのか!?」

 遠ざかる担架を平然と眺めるシャルに、スラフは思わず声を荒げていた。
 膨れ上がった少女たちは顔の判別もつかなかったが、ボコボコの頭部から生えた髪や服装から察するに、一人はスラフの従姉妹に違いない。

「よくもあんな……なんて酷いことをするんだ!」

 シャルの言った効果から察するに、彼女がかけたのは古代魔法の一種だろう。
 ロクサリスの魔法使いでも、難解な古代魔法を習得できる者は少ない。そして実際に見た被害者の姿は、魔法書にかかれた絵図よりもはるかに壮絶だった。
 チロリ、とひどく冷めた目でシャルはスラフを見上げた。

「あの呪いを仕込んだのは、私が自室に置いた実家宛の手紙なの。つまり彼女たちの姿は、他人の部屋に忍び込んで、手紙を盗み見ようとした証拠よ」

 二色の瞳が、鋭利な光を帯びる。魔法使い青年は、氷と炎の刃を喉元に突きつけられているような錯覚に陥った。

「それでも不当と思うのなら、老師に訴えて下さっても結構よ。もっとも、ここの魔法使い達が、錬金術師の呪いも避けられなかったと、暴露することになりますけど」

「っ!? く……」

「ここにも慣れましたし、もう案内は不要です。ありがとうございました」

 スラフは青ざめて後ずさり、素早くきびすを返して走り去ってしまった。

 一人残ったシャルは、情けない後ろ姿をフフンと鼻で笑う。
 いちいち恩着せがましい事を言っては付き纏い、下心満載でしつこく誘いかけてくる男も、これで懲りただろう。
 シャルは白衣の長い裾を翻し、ゆうゆうと渡り廊下を後にした。



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