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氷炎の魔女・若き日の憂鬱
【ファンタジー 官能小説】

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二色瞳の留学生-2

 魔法の盛んなロクサリスと、錬金術の盛んなフロッケンベルクは、隣国ながら長らく険悪な関係だったが、この数十年は戦もなく、両国はぎこちない部分もありながら、徐々に友好を深めていた。
 今では王室間での使者の交換だけでなく、錬金術ギルドと魔術ギルドも留学生を交換しているほどだ。

 しかし……交換留学生の実態は、それほど甘くない。
 一般市民や他の部門ならともかく、錬金術ギルドと魔術ギルドは水面下で未だに激しく争っている部分が多いのだ。
 どちらのギルドが先に設立されたとか、多々ある似たような魔法薬は、そっちが真似したんだろうとか……ひげの白くなった老人たちまでも、これらの議論を始めると熱くなり、しまいに子どもレベルの殴り合いになる。
 よって留学生は、まず陰湿ないじめや嫌がらせの洗礼を受けることになり、一ヶ月ももたずに神経をやられて帰国する者が大半だ。
 交換留学生に求められる素質は、もちろん優秀さであるが、それ以上に必要なのは、鋼のごとき不屈の精神と、心臓に毛の生えたような図太さなのだ。

「……ルク鳥の卵二つ……スラフさん、そこの棚では?」

 唐突に名を呼ばれ、魔法使い青年スラフは我に帰る。

「あっ、ああ。ここだった……」

 保存液に浸された瓶詰めの卵を二つ取り、籠に入れる。

「それよりシャル、ここの暮らしには慣れたか? 何か悩みでもあったら、遠慮なく相談してくれよ。俺は君がここにいる間、パートナーなんだからさ」

 うわの空だったことを誤魔化そうと、やや不自然に話題を振った。

「いいえ、特には。お気遣いありがとうございます」

 シャルは特に感激した様子もなく、淡々と述べる。その様子は、やせ我慢をしているようにも見えなかった。
 しかし、彼女はこの三ヶ月、複数の魔法使い女子たちから、陰湿なイジメを受け続けているはずだ。

「本当? いや、別に疑うわけじゃないけど……ロクサリス国民として、留学生には気持ちよく過ごして欲しいっていうか……」

 実を言えばスラフも、昔はフロッケンベルクからの留学生に、よく嫌がらせをしていた。
 二十歳になった今では、さすがに子どもじみた真似は控えるようになったが、それでも錬金術士と仲良くしようなどとは思わなかった。
 それが最年少の留学生としてやってきたシャルに一目ぼれし、留学中の案内役を勤めるとまで申し出てしまったのだ。
 同じ申し出をした魔法使いは他にも大勢出たが、なんとか力づくで勝ち取った。逆に女性たちは、男たちの態度から更にシャルへ嫌悪を増したらしい。
 いつも積極的に留学生を苛めているメンバーが、女だけでヒソヒソと、よからぬ相談をしているのを聞いた。シャルの部屋に、何か呪い魔法を仕掛けているのも見た。

 スラフがその場で彼女たちを止めなかったのは、しごく単純な打算からだった。

 シャルが苛められて傷つく → 相談を受けた俺が、さっそうと苛めの首謀者と話をつけ、悩みを解消してやる → 感激するシャル → 生まれる恋 ……と、いった具合だ。

 何しろ留学生に選ばれるだけあり、シャルは非常に優秀だった。錬金術はもちろん、魔術ギルドの老師も驚くほど、高度な魔法にも精通している。
 スラフは若手で一番有能と言われていたが、きっと本気で魔法勝負をすれば適わないだろうと、容易に想像がついた。
 ただ、シャルはそういった実力の差をひけらかす真似もせず、あくまで招かれている身として、スラフや他の魔法使いの顔を立ててくれる。
 非の打ち所がない配慮だが、四つも年下の少女にそれをやられると、余計に悔しさが入り混じった。
 だからつい、シャルを傷心させて、自分が良いところを見せたいなどという、歪んだ考えに傾いてしまったのだ。



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