ある恋の物語-1
1)
納屋の高窓から、斜めに射し込んだ光りが、うず高く積まれた干し草に反射をして、壁に掛けた鎌や鍬を浮き上がらせている。
鎮守の森から、どーん、どん、どん、と、祭りの太鼓が切れ切れに聞こえてくる。
干し草の蔭で、伊助が身を起こした。
「痛かったけえ、さわさん」
「なえ、だいじょぶだ」
さわと呼ばれた娘が、伊助の蔭で身を起こす。
はだけた胸元を合わせると、横を向いて、懐から出した布で、股間を拭う。
「だいぶ、血い出たな」
「だいじょぶだ」
裾を合わせると、横膝に座り直す。
「伊助さん、拭ってあげるよ」
「おらがやるよ」
「そんだこと言わずに、おらにさせておくれよ。お前の女房になっただから」
さわは、伊助の亀頭をつまむと、手にした布で、根元から恥毛を拭い、陰茎をごしごしと擦った。
「伊助さん、必ず迎えに来てけれよ。おらあ、もう、ほかに、嫁さ行がれねえ体になっただからない」
「必ず来る。とっつぁま助けて、金さ貯めて、一日も早く迎えにくるからない。待っててけれ」
「お守り作っただ。伊助さんとおらと、一つづつ。早く会えるように、ふだりの名前さ書いて入れてあるだ」
「さわさん、忘れねよに、おめえの毛、一本呉れねか、大事にするからない」
「そだら、ふだりの毛、結んで、お守りに入れるべ。夫婦約束の印に」
「さわさん」
「伊助さ。もう一度、抱いてけれ」
2)
時は移り、いまや、日本から南米に移住するものはほとんどいない。代わって、かつての移住者の子孫である日系人が、日本に逆移住をする時代になった。
自動車関連産業の多いこの町にも、近くの自動車部品工場で働く南米から日系人が増えて、サンパウロやリマ、ベレンなどと言う名前のレストランが、これらの人達で賑わうようになった。
ホルヘ・牧田はブラジル生まれの日系の三世で、この町に来て1年が経った。サンパウロ工科大学を出て、生産管理の実務を身に付けるため、自動車工場で働いている。
今日のレストラン・サンパウロは、ホルヘの結婚を祝う友人達で、満席だ。
結婚の相手は、このレストランの経営者の娘で、さや子。日本語の不自由なホルヘに、何かと親切にしている内に、恋が芽生えた。後半年の研修が終われば、ホルヘはさや子を連れて、ブラジルに戻ることになった。
乾杯が繰り返され、皆にせがまれて、ホルヘとさや子がキスをしてみせると、やんやの拍手が沸いた。
宴が峠を越すと、友人達は袖をつつきあって、おめでとうを繰り返しながら、帰って行った。
二人は、このレストランの二階で、新婚生活を送ることになっている。
「疲れたでしょう。さや子さん、片づけは明日にして休みましょう」
「そうね、どうせ明日はお休みだから」
戸締まりをして、電気を消すと、さや子はホルヘの手を引いて、二階に上がる。
二人の部屋は、元々さや子が住んでいたので、ピンクを基調にしたカーテンやベッド、内装などは、若い娘好みのものが揃っており、ホルヘにはえらく艶めかしく感じられた。
ホルヘは、さや子に勧められるままに風呂に入った。
これから迎える初夜のことを考えると、不安になる。
今時の日本の娘に処女はいないと友達からは聞いているが、果たしてさや子は、処女だろうか。若し処女だったら、痛がるのだろうか。出血するのだろうか。上手く挿入出来るだろうか。
そんな事を考えると、湯の下に揺らめくペニスが、萎えてくる。いざと言う時立たなかったら、どうしよう。