千年メダル-4
車内は無言のままだった。
横目で彼を見れば、いつもと変わらない愛想のない横顔。
純粋に片想いしてた頃のあたしならこんな沈黙でもニヤニヤしていたに違いない。
でも、振られてしまった今、いくら普段からヘラヘラしているあたしでも、能天気に楽しく話題を振りまくなんてできっこない。
仕方なく黙って窓の外の流れる景色を見つめていれば、次第に街中から郊外へと向かっているらしく、視界に緑が増えてきた。
清々しい秋晴れの澄んだ空気が、少し開けた窓から入り込んでくる。
絶好のドライブ日和だけど、こんな重苦しい空気の中で彼はどこへ連れて行くのだろう。
ふと、さっきから存在感のある甘い香りに意識を集中させた。
惜しみ無くたくさんの花が飾られた花束なんて、結構なお値段がするに違いない。
ましてや男の人が花束を用意するなんてよっぽどの理由があるはずだ。
すぐに真っ先に写真の中の芽衣子さんの笑顔が浮かんでくる。
……やっぱり、それしかないよなあ。
なるべく考えたくなかったけれど、やはり彼の中での彼女の存在が大きいことにため息が出てきた。
一応、確認のためにあたしは口をゆっくり開く。
「久留米さんがついてきて欲しいって言った場所は……もしかしてI岬ですか?」
そう訊ねると、彼はしばらく黙っていたけれど、やがて大きく息を吐いてから
「ああ」
と呟いた。