千年メダル-32
「久留米さん……」
「ん?」
「長生きしましょうね、あたし達」
「……ああ」
あたしが静かにそう言うと、彼は小さく頷いて、掴まれた手に力を込めた。
「永遠が無理なら、せめて長生きして表彰台に上れるような恋にしましょ……」
力強くて優しい歌声は、どうしてこうもあたしを泣かせてくれるんだろう。
明るく言ったつもりなのに、感極まって語尾はすっかりかすれてしまった。
たまらず顔を俯かせ、空いてる方の手で目をゴシゴシこする。
「……宗川さん」
ふと掴んでいた手があたしから離れると、あたしの肩に回り込んだ。
そして、触れるだけのキスをされた。
驚いて目を見開けば、眼前には少しはにかんだ彼の顔。
意外と長い睫毛がゆらゆら揺れていた。
至近距離で視線が絡んだあたしも、照れを隠すように笑ってしまう。
でももっともっとと思ってしまったのは、どうやらお互い様だったようで。
それからあたし達は、何度も角度を変えて食むように唇を重ねた。
車内に響くのは、初めて聴いた『千年メダル』と互いを求めるキスの音。
もう、このまま時間が止まって欲しい。
それほどに久留米さんのキスは優しくて、蕩けてしまいそうだった。
何度もキスを重ねるうちに、曲はいつの間にかフェードアウトしていたけれど、あたし達はそれに気付かないまま互いを貪るように求め合っていく。
あたし達がこうしてることなんて知るわけがないディスクジョッキーの女性の声が再び耳に届く。
『はい、お送りしましたのは、THE HIGH-LOWSの“千年メダル”でした!
“セイくん”さんは、いつまでも一人の女性を忘れられなかったお友達が、ようやく新しい恋に出会えて前に進んだことを応援するため、この曲をリクエストしてくれました。
いやあ、“セイくん”さんはホントにお友達思いですね。
“セイくん”さんのお友達にどうか届きますように!
それでは次のコーナー参りましょうか』
次々に降り注いでくるキスの雨に打たれながら、あたしはこのリスナーのお友達の恋もうまくいきますように、とボンヤリ願った。