千年メダル-31
「俺さ、芽衣子のことホントにホントに大好きだった」
「……うん」
ゆっくり久留米さんの顔を見上げると、彼は微笑んだ顔のまま、黙って前を見つめていた。
その想いの強さは計り知れなくて、だからこそあたしは、芽衣子さん以上の存在になりたかった。
でも、彼を前に進ませてくれたのも芽衣子さん。
彼女の存在なしでは、今のあたし達はなかったって確信できる。
そんなことをぼんやり思ってると、久留米さんがゆっくり話を続けた。
「その気持ちは絶対忘れない。それがあるから今の自分がここにいるんだ。
そして今の自分は宗川さんが好きで、これから先もそばにいてほしいって思ってる。
そう考えたらこの歌みたいに、人の気持ちなんて永遠を約束できるもんじゃないって思い知らされるんだよな」
「……うん」
「俺だっていつか死ぬわけだから、永遠に愛するなんて無責任なことは言えないけど、これから先ずっと宗川さんと一緒にいて、いつか表彰台に上れるような恋になってたとしたら、メダルを受け取ってほしいって思った」
「久留米さん……」
「なんて、クサ過ぎだな」
頭を掻いてちょっと俯く横顔がたまらなく愛おしくなって、あたしはまたしてもボロボロ涙をこぼし始めた。
あてにならない永遠の約束なんていらない。
確かなのは、芽衣子さんを本当に愛してた過去と、あたしを好きだと言ってくれた今の久留米さん。
だったらあたしはそれを全部受け止めて、今を生きている久留米さんを信じる。
あたしはゆっくり彼の左手を掴んだ。
この手の温かさ、柔らかさ。まさに彼は生きていて、前に進み始めたばかりだった。