千年メダル-20
油性ペンで書かれたそれは、“幸”と“願”という字が黒く滲んでいて、単に画数が多いから黒くなってしまったのか、誰かの涙で滲んでしまったのかは知るよしもなかったけれど、彼女のとても優しい気持ちが伝わってきた。
あたしは右手で口を抑え、漏れ出す嗚咽を必死で抑えようとする。
「その日付、アイツがここから飛び降りた日なんだ」
「…………」
「残されたアイツの小さなバッグに、これが入った写真立てが窮屈そうに押し込められててさ。
あん時はパニックと悲しみで、こんなもん残されても眺める余裕なんてなかったんだ。
何よりこの頃の思い出を見るのが辛かったから、ずっとダッシュボードにしまいこんだままにしてた」
久留米さんはそう言って、あたしから写真を受け取り、もう一度三人が笑っている様子を黙って眺めた。
「でも、裏にこんなこと書いてあったのに気付いたのが昨日……、メイが写真立てを壊したあん時だったんだ」
フッと笑う久留米さんは、メイのことでも思い出しているのか、とても優しい顔をしていた。
だけど、次第にその口元には力が込められていき、小さく震え出していく。
やがて切れ長の瞳から、陽光で輝いた涙が、スウッと流れ星みたいに頬を静かに伝っていった。