強攻♯-1
汐莉との蜜月が終わりを告げようとしていた。
いや、すでに終わっていたのかもしれなかった。
それを俺が認められず、今日まで先延ばしにしていただけであった。
汐莉が俺が望んだ“希望”を果たし終えると、一年前に記録した画像を携帯事その手にする。
その瞬間、安堵の表情を浮かべる汐莉がそこには居た。
「次はいつ逢えそう?」
汐莉の心中を覗き見る様に、いつも通りに尋ねてみた。
「んっ? んっとね、また連絡するね」
一瞬、意外な表情を浮かべつつ、重々しく言葉尻を濁す汐莉。
その日を境界線に、汐莉は露骨に俺を避け始める。
おそらく例の画像が、汐莉に取って唯一の気がかりであったのであろう。
それは残念な反応であったが、汐莉に取っては至って普通の反応であるとさえ思えた。
そして自身に言い聞かせる様に理解しようとも努めた。
しかし…… 出来なかった。
(汐莉、ちょっと露骨過ぎるかな? いけない子だ。罰、そう、罰を与えなければいけない)
汐莉の反応、行動があまりにも露骨過ぎ、俺の矜持を痛く傷付けたのだ。
予想はしていたが、それがあまりにも悪い方向に上回り俺を暴走させていく。
汐莉と最後に逢ったあの日。
俺はその“行為”を卑怯にも盗撮した。
盗撮した動画は期待以上の出来で、汐莉の痴態はもちろん、その口から零れ出た淫靡な言葉さえ克明に記録されていた。
衝動を抑えられない俺は、姉の家に電話をすると電話口に汐莉を呼び出す。
運良く電話に出たのは双子の姉で、汐莉は在宅かつ双子の姉妹以外は留守である事を聞き出す。
「…… その、あの」
電話口に出た汐莉は、沈黙を交え極力口数少なく応対しようとする。
「汐莉ちゃん、まだ近くに若菜ちゃんは居るのかな?」
極力平静を装いながら、周囲の状況を窺う。
「ん、ん、ううん。今から若菜ちゃんは、友達の家に遊びに…… それより、それより、もう……」
微かにも、決意に満ちた口調である。
「それで汐莉ちゃん、今から家においでよ。すごく面白い映画があるんだ」
俺は素っ頓狂に明るい声で、汐莉を誘ってみた。
「もう、ダメ…… だよ。お兄ちゃん」
汐莉の言葉が、俺の誘いを冷たく拒絶する。
「すごく面白くて、汐莉ちゃんも気に入ると思うよ。すごく可愛い女の子が、すごくエッチな事をする映画なんだ。大人のオチンチンを舐めたり扱いたり咥えたり」
俺は汐莉の言葉に耳を傾けず、ただ淫猥な言葉を羅列した。
「…… 酷い、酷いよ、お兄ちゃん、騙したんだね?」
数秒の間隔の後、感の良い汐莉の声は涙声に変わっていた。
「それから、その女の子、オマンコ、おまんこ良いって言うんだよ。そういや、この子、汐莉ちゃんに似てるかなぁ〜」
俺の心には悪魔が、いや淫魔が巣食っていた。
ダメ押しの言葉を吐き続ける。
どうにも抑えきれない、汐莉とのセックスへの欲求が俺を突き動かす。
「……」
電話口からは、微かに汐莉の泣き声だけ聞こえてきた。
「汐莉、今すぐ家に来るんだ。解ったね」
それだけ言うと、俺は受話器を置いた。
俺の中の汐莉は、他人の物になってしまった姉“恵利子”と同一化されていた。
5年前の俺は、当時まだ13歳の恵利子に対し、狂おしい程に想いを寄せていた。
可笑しなものである……
二十歳の浪人生が、七つも年の離れた姪に恋をしたのだ。
おそらく俺は、世間一般で言う“ロリコン”なのであろう。
恋と言えば聞こえは良いが、実際のところは性欲の対象であった。
繰返される妄想の中、俺は激しく恵利子を犯し続けた。
しかしそんな妄想を繰返しているうちに、その恵利子に彼氏が……
その恐れていたタイミングは、思ったよりちょっとだけ早かっただけで、きっと現実は変わらなかったはずである。
当然ではあるが、叶わぬ性欲の対象である。
しかし、今度は違う。
その始りは、汐莉からだったのだ。
俺が受話器を置いてから、30分後玄関のドアホンが鳴る。
「…… 汐莉です」
一瞬の間合いをおいて、待望の時が告げられる。
(今度は逃がさないよ、恵利子)
俺は現実と妄想が入り乱れる意識の中、汐莉を、“恵利子”の腕を掴むと自室へと引きずり込む。