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ゆえとナオさん 東京マラソン
【スポーツ その他小説】

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後編-1

ドン!
「わっ!」
「なに?…花火?…」
列の、うしろーの方で音がしました。
私たちは、二人とも背が低いし、
ランナーの列はとても長いので、全然見えません。
周りの応援の人たちも、よく分かりません。
「え、なに?」
「ジコ?」

ドォン!
コースの真ん中のほうで煙が上がります!
何かが飛び散って、人が吹き飛ばされています。
「ナオさんのほうだ!…」
「キャー!ナオさん!」
「危ないっ!」
「爆発だ!逃げろっ!」

ナオさんが血相を変えて、
右往左往する人をかき分けてこっちに走って来ます。
「バクダンよ!すぐ近くで爆発した!」
「ナオさん!…血っ!…」
「キャーッ!」
「えっ!?違っ、私のじゃない。
隣の人に、飛んで来た脚がぶつかったから…」
「ええっ!」
「ゆえ!ナイフ!」
「は、はいっ!」
ナオさんはシースベルトを手早く腰に巻きます。
ナオさんから、鋭い緊張の匂いがします。

ドォン!
「頭を低くして走るのよ!とにかく離れなきゃ!」
ナオさんは、私たちに被さるようにして走りだします。
大会どころではありません。
3万5000人の大パニックです!世界が揺さぶられるようです!

バアンッ!
「伏せてっ!」
ナオさんに押し倒されてアスファルトにダイブします!
ごっ、と焦げ臭い風が吹き抜けます。
砂が、痛い。
抱えた頭の上を、何か重たいものがぶつかって、
転がっていきます。

伏せたままで振り返ると、
さっきまで私たちがいたところに、煙が立ち込めていて、
人がたくさん倒れて、うめいています。
頭の上を転がったのはおじさんで、
へんな格好で地面に突っ伏したまま動きません。

「ランナー爆弾だ!誰が爆発するか分からない!」
「うえっ…うえっ…」
「立って!美さき!」
泣き出しそうな美さきちゃんは、立ち上がれません。
「おじさんが!」
「その人はだめよ!自分を守って!」
「…おじさんごめんなさい」
ナオさんは美さきちゃんを立たせて、
抱えるようにして走ります。
私もナオさんのシャツの裾を、強く握って走ります。

回りは、
同じように逃げまどう人たちで、跳ね飛ばされそうです。
安全な場所がどこなのか、誰にも分かりません。
隣の人が爆発するかもしれないので、
みんな気が狂ったみたいになってます!

「あのビルに走って!」
大きくないビルに向かって走ります。
ドォン!

「シッ!」
エレベーターホールに駆け込むと、
ナオさんが走りながら、釘のようなナイフを投げます。
ガチッ!
ボタンが押されて、開いたドアに飛び乗ります。
閉めるボタンと、最上階のボタンをバンバン叩きます。
やっとドアが閉まって、上に向かって動き始めます。

「うわぁぁん…うわぁぁん…」
三人でエレベーターの床にへたり込むと、
美さきちゃんが泣き出します。
「はぁっ、もう、はぁ、大丈夫、はぁっ」
「はあっ、はあっ、うあっ、うわぁぁん」

ドォォン

外でまた、誰かが爆発しました。


帰りの電車では、
席を譲ってもらったり、ペットボトルをもらいました。
ナオさんのシャツには血が付いたので、
駅のトイレで着替えました。
私とナオさんは、転がった時に靴が片っぽどっかに行ったので、
コンビニ袋をもらって、二重にして履きました。
みんな親切にしてくれました。
三人とも、ほこりまみれになりました。

お母さんと双葉さんが来ました。
双葉さんは話の途中で気分が悪くなって、
お母さんに介抱されました。
お母さんの勧めで、
病院でPTSD(心的外傷後ストレス障害)
のカウンセリングを受けました。
美さきちゃんは、大きな音が嫌いになって、
ナオさんから離れません。

怪我は、三人とも擦り傷と打撲くらいで済みました。
ナオさんがいなかったら、
とてもこんなものでは済まなかったでしょう。

ナオさんは、マリーさんとオンラインで話し合っています。
珍しく、マリーさんに英語でまくし立ててます。
やっぱり自分のお母さんには遠慮なく話せるのでしょうか。



ナオさんは、現場のど真ん中にいたので、
警察に話をしに行きました。
「ただいま」
「お帰りなさい、どうでした?」
「爆発前の周囲の状況とか聞かれたよ」
ナオさんは元気が無いです。

「爆弾は、臭いのしない特殊な爆薬で、
セラミックの球を飛ばす作りだから、
航空機でも持ち込めるんだって。
薄くて軽い、ベストの形だから、
服の下に着込んでも目立たないそうだよ。
出どころの特定は時間がかかるって。

死者十数名、負傷者数百人。
ランナーは薄着だから、被害が拡大したんだ。

手足の切断を余儀無くされた人が、何十人もいるの。
ランナーにとって、翼をもがれるのと同じ。
あんまりだわ」

ナオさんが涙します。
ナオさんは、自分の事では泣きません。
美さきちゃんと二人で、ナオさんを支えます。
深い、悲しみの匂いがします。

「鳥が、自由に、飛べる世界を…」


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