THANK YOU!!-4
エピローグ
春の暖かい風の中。薄いジャケットを着て、被ったキャスケットから見える空の眩しさに目を細めて空に手を翳す。
瑞稀の姿は前と変わらず、アメリカにあった。
『ミズキ、お疲れ様』
『ありがとう、エンディ。お疲れ』
自分たちの愛用の楽器ケースを持って練習場所に戻って来た二人は拳をコツンと合わせた。その二人を出迎えたのは多くの仲間だった。
『お帰り!二人とも!』
『待ってたよ!お疲れ!』
『どうだったよ、各国との交流会!』
『話聞かせてくれよ!!』
『分かった、分かったって。とりあえず、荷物置いてからね』
興奮して詰め寄る仲間たちを宥めながら、ひとまず大ホールに入る。すると、そこにはパイプ椅子に座ったボスが待っていた。何の迷いもなく瑞稀とエンディは真っ直ぐボスの前に立つ。
『ただいま戻りました、ボス』
『結構楽しかったわ。』
笑顔で言った二人に、ボスも眉間のシワを緩めた。
『お帰り。疲れているだろう、少し休憩しなさい』
『ありがとう、ボス』
『ありがとうございます』
ボスからの気遣いに二人がお礼を言うと、そこで笑顔を見せてくれた。その笑顔に、二人は顔を見合わせて笑った。ボスへの報告が終わるのを待っていた仲間たちは、そこで二人を取り囲んだ。
あれから数ヵ月。
アメリカに戻って今回の反省を活かしつつ、やっと確実に自分のモノに出来た音を高めた瑞稀はますますの活躍を期待されていた。今度こそ気負いもなく、コンサートではコンマスを無事に務め果たした。
そこで先日、瑞稀とエンディは世界平和の為に結成されたオーケストラのコンサートにアメリカの代表として選ばれたのだ。一昨日からその為の交流会に参加していて、今帰ってきたというところだった。
『ミズキはまた注目を集めているから大変だったわ』
『よく言うよ。自分だって目立ってたくせに』
『にしても、凄いよな。世界中から名だたる音楽家を集めたオーケストラにウチから2人も出るとは・・。』
『アメリカ代表だもんな。』
『ミズキ日本人だけどね。』
『だな。』
どっと笑いに包まれる。
瑞稀も一緒に笑っている中、一人の仲間が心配そうに声をかける。
『ミズキ、最近忙しいけど・・大丈夫?』
『え?』
『また無理とかしてない?』
自分を気遣ってくれる優しさに、瑞稀が満面の笑顔で大丈夫だと答える。
その瑞稀の肩にエンディが手を回した。
『体調は良いとして、また彼氏くんと上手くイってないんじゃないの〜?』
『はぁ?』
エンディの突然の言葉に、瑞稀は思わず呆れて聞き返した。
瑞稀のそれを気にする風でもなくエンディは更にからかい続けた。
それを見る仲間たちはエンディと同じようにニヤつく者もいれば、苦笑いする者、本気で心配してくれる者と三分割されていた。
そんな仲間たちを見て、どうもこう愛されてるのか遊ばれてるのか良く分からないなと瑞稀は大きな溜息をついた。
『ミズキのことだから、まーた、連絡取らないんじゃないのー?』
『・・あのね・・』
仕方なしに説明してやろうと思った矢先、瑞稀のケータイ電話が鳴った。
先程まで電車やバスを乗り継いでいて携帯ゲームをして暇を潰していたので、電源を切るのを忘れていたようだ。
急いでショートパンツのポケットからケータイを取り出して画面を見た瞬間、瑞稀の口角が上がった。
みんなが不思議そうに見ている中、瑞稀はそのまま平然と通話ボタンを押した。
そして。
『あ、拓斗?久しぶり!』
『『『!!』』』
そう大きな声で電話の相手と自分を取り囲み、からかった仲間たちに聞こえるように言った。しかも英語で。
驚いて、言葉を失ったエンディから脱出した瑞稀は小悪魔のような笑みを浮かべてホールを出た。
からかったハズが、瑞稀からやり返されたエンディを見て大笑いする仲間たちを残して。
「ふふ・・エンディのばーか」
『瑞稀?』(ここから『』は電話口)
「あ、ゴメン。拓斗。いきなり英語で」
『いや、良いよ。大体想像つくし』
そう言って電話の向こうで笑うのは、先程からかいのネタになった拓斗だ。
「そうだ!拓斗、世界大会優勝おめでとう!」
『お、サンキュ。』
今拓斗は大学4年生。就職は決まっていて、何も気にすることなく剣道に打ち込んでいる。数ヵ月前では出来なかった世界大会の優勝も数日前に達成することが出来た。
今年のオリンピックでは新たに剣道が種目に加わり、唯一の日本代表として決まっている。
そんな拓斗と遠距離ながらも、関係を続けていた。とは言っても、瑞稀の忙しさに拍車がかかっていてまともに電話をするのはこの日が久しぶりだったりする。
メールは二日に一度のペースでやっているものの、数ヵ月前と変わらない状況に陥ったりする時もある。そういう時は、距離が開いたなと先に感じた方が電話するという約束が自然と出来た。
そして、もう一つ。自然と出来たモノがある。
「拓斗、聞いて聞いて!さっき交流会から帰って来たんだけどね!」
『おう』
瑞稀から、拓斗に自身の事を話すようになったことだった。
1万kmも離れた遥かの地で、将来の約束を交わした恋人が頑張っている。
なら、誰より自分もその隣で笑えるように頑張りたい。
だけど一人ではなくて、仲間や親友に支えられて、大好きな人と一緒に二人で。
遠く離れても、一番近い距離で、自分の信じる、大好きな音を奏でながら、
愛する人に、感謝と愛の言葉を届けよう。
それが、自分の言葉を伝えることになるのだから。
Thank you & Love you !!
END