妖怪艶義〜一本ダタラ〜-5
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翌朝、登山道の入り口で気絶しているところを、僕は近隣の人に発見された。
服も荷物もちゃんと身につけていたし、それどころか、なぜか山菜や果物がひと山、傍に置かれていたらしい。
その日の夜、その山菜や果物で作った夕食を食べながら、僕は昨日の出来事を民宿のおじいさんに話してみた。
するとおじいさんは目を丸くして、「まだ山ん中にいなさるのか」と、驚いた様子で声を張り上げた。
信じられない事に、彼女はおじいさんが子供の頃から、変わらぬ姿で山にいるらしい。
山で一緒に山菜を採ったり、鬼ごっこをしたりして遊びもしたそうだ(もちろん、一度も勝てなかったらしい)。
僕はおじいさんに、大人になってからも彼女に会った事があるか、尋ねてみた。
するとおじいさんは一瞬押し黙って、口の辺りをヒクヒクさせて微妙な笑みをかみ殺しながら、ぼそり「ない」とだけ応えた。
でもそう言ってから、「…今のわしが会いに行っても、全然相手にしてもらえんだろうなぁ・・・」と、少し寂しそうに、それでいてとても懐かしそうに、ぽそり付け足したのだった。