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雨の歌
【女性向け 官能小説】

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アクアマリンのリング-1

 ホテルの10階にあるバーの、広いガラス窓に向いた細長いカウンター席で、良平とリサは肩を寄せ合っていた。窓ガラスには無数の雨粒がつき、街のたくさんの白やオレンジ色の光をその内に宿していた。

「秋の雨って、私好き」
「まさにブラームスの雰囲気ですよね」

 リサは良平に目を向けた。「私、今良平さんに会えて、本当に幸運だったと思います」
「え? 今、って?」

 リサは両肘をテーブルにつき、指を組んだ。「一年前に貴男にお会いしたとしても、きっとここでこんな時間を過ごすことはなかっただろうな、って思うんです」
「どういうこと?」
「出会いって、タイミング。そう思います」
「タイミング……ですか」

 リサは目の前のピンク・ジンの入ったカクテルグラスを手に取った。
「一年前は、まだ私、つき合ってる人がいたでしょう? だから、その時に貴男に会っても、きっとただの上司としか思えなかった」

「訊いていいですか?」良平はジンライムの入ったグラスの表面の水滴を軽く指で拭った。
「はい?」
「貴女がつき合っていた彼って、僕に似た人だったんですか?」

 リサはふっと笑った。「全然タイプが違います。」
「そう」
「年下で、ドライ」
「ドライ?」
「はい。私とつき合うのが楽しいのか、そうでないのか、よくわからない人でした」
「出会ったきっかけは?」
「専門学校に通ってた時の後輩です。でもつき合い始めたのは一昨年の冬。街でばったり会って、お茶でもどう? って誘われたんです」
「なかなか積極的じゃないですか」
「交際期間中で、その時が一番積極的でしたね」リサは笑った。「つき合い始めると、食事に行っても、ドライブしてても、あんまり私にアプローチしてこないんです」
「でも、そ、その、深い関係にまでなったんでしょう?」
「恥ずかしい話ですけど」リサはカクテルグラスをカウンターに置いた。「私が誘ってホテルに行ったんです。最初」
「へえ」
「なんか、二人で抱き合って一つになれば、もっと私を愛してくれるんじゃないか、って思って……」
「つまり」良平はグラスを手に持ち、一口中身を飲んだ後、リサの目を見た。「貴女は彼の愛がもっと欲しかった、っていうことなのかな」
「普通、恋人同士なら、時間が経つにつれて親密になっていって、男の人だったら相手の身体を求めてくるもんだ、って思ってましたから」
「確かに……」
「でも結局、私が誘わない限りあの人は私を抱いてくれませんでした」
「そうなんだ……」
「だから2年近くもつき合っていながら、そうやって抱き合ったのはほんの数回です」

 リサはピンク・ジンをすっと飲み干した。

「その人とつき合ってる間、心も身体も燃えることはありませんでした。それでも、私、彼のことが好きになっていってたんですね。もう別れよう、って言われた時は、死にたいぐらいに悲しかったですから……」
「それが、貴女が入社してきた時ですね」
「はい。自分でも変だと思います。全然熱くならない相手のことを大好きだ、って感じてたんですから」
「そうですか……」良平は窓の外に目をやった。

「だから」リサはカウンターの上に乗せられていた良平の手に、そっと自分の手を載せた。良平は思わずリサに顔を向けた。「さっき、貴男に抱かれた時は、私、生まれて初めて心も身体も燃えるように熱くなりました」
 リサは顔を赤らめた。
「僕も……だな」
「貴男も?」
「はい。リサさんにはお話ししたように、僕の前の彼女は、どう考えても僕と違う世界に生きている人だった。僕の場合、もうこんな歳だし、親にも安心してもらいたくて、結婚を焦ってた。反りが合わない、と解っていても、つき合っているうちに何とかなるだろう、って」

「同じだったんですね……私たち」
「僕も、リサさんを抱いて、生まれて初めて心から熱くなれた。それまで一度もなかった身体中の火照りと弾けるような喜び、というか、快さ……」
「嬉しい……」


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