投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

雨の歌
【女性向け 官能小説】

雨の歌の最初へ 雨の歌 20 雨の歌 22 雨の歌の最後へ

アクアマリンのリング-2

 良平は自分の前のグラスを、コースターごとリサの前に移動させた。「飲んでみてください。ジンライム」
「はい」

 リサはグラスを手に取り、口に運んだ。「これもおいしいですね。なんだか、良平さんがこの味に結びつけられてしまいそう」
「え? どういう意味ですか?」
「これを飲む度に、貴男が心に染み渡っていく条件反射。だって、こんな素敵な夜も、私初めてですから……」リサは良平の肩に頭をもたせかけた。
「貴女が言った、タイミング、っていう意味、解りました。僕にとっても貴女との出会いは、先月でなきゃいけなかった」良平はリサの肩に手を回した。

 もう片方の手でポケットを探っていた良平は、テーブルに小さな箱を置いた。「僕が部屋で酔っ払って、貴女がいる前で壁に投げつけたのは、その彼女に渡すつもりだった指輪。あれはリサイクルショップに売り飛ばしました。あまりに悔しかったから」

 良平は笑いながら続けた。「これは、リサさん、貴女にいつか渡すつもりの指輪です」

「えっ?」リサは思わず顔を上げた。

「僕はごく普通の平凡な男です。小心者で気の利いたこともできないし、不器用で、女性の扱いにも慣れていない」

 良平はリサの目を見つめた。

「だから、貴女が僕とずっと一緒にいてもいい、って決心したら、この箱を開けて下さい」
「良平さん……」
「それまで僕は待ちます。いつまでも。でも、もし貴女には必要ないというんでしたら、これもリサイクルショップに」良平は恥ずかしげに笑った。

 リサは目に浮かんでいた涙を乱暴に右手で拭い、焦ったようにその箱を手に取り、中からジュエリーケースを取りだした。そして一瞬動きを止めた後、その蓋をゆっくりと開けた。
「えっ?! リ、リサさん、も、もう?」良平はずり落ちかけた眼鏡を慌てて掛け直した。

 黄金色に輝く細いリングに一粒のライトブルーの石が埋め込まれ輝いている。

「アクアマリンの指輪……」リサは独り言のように呟いた。

 リサはそのリングを取り出し、良平に渡した。「私の指に……」

 良平は少し震えながらリサの左手をとり、リングを薬指に通した。そして両手でその柔らかで温かい手を包みこんで、ようやく微笑んだ。

「おじいちゃんになっても、その笑顔を、私に向けてくださいね」
 良平は思わず、ぎゅっとリサの身体を抱きしめた。

 窓の向こうに散らばった無数の雨粒のうちの一つがつっと流れ、隣にあった雫と一つになり街の灯を反射して小さく輝いた。

〈終わり〉


2013,12,20初稿脱稿(2014,2,18改稿)

※本作品の著作権はS.Simpsonにあります。無断での転載、転用、複製を固く禁止します。
※Copyright © Secret Simpson 2013-2014 all rights reserved


雨の歌の最初へ 雨の歌 20 雨の歌 22 雨の歌の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前