雨の歌-1
『Simpson's Chocolte House』の店の前に並べて植えられたプラタナスの木は、その葉を鮮やかに黄色に染めて、その駐車場を取り囲むように立てられた街灯のオレンジ色の光に包まれ、揺らめいていた。
閉店後の喫茶スペース、窓際のテーブルに修平と夏輝、それに真雪が向かい合って座っていた。
「どういうきっかけだったのかな」真雪が切り出した。
「俺にもよくわかんねえよ。気づいたらあの二人、つき合いだしてた」修平はコーヒーカップを手に取った。
「でもさ、リサって年下の彼とつき合ってたんじゃなかったっけ?」
夏輝が言った。「そうそう。シャイで年下の彼がいい、って言ってたよね」
「そいつとはいつ別れたんだ?」修平はカップをソーサーに戻した。
「リサが良平兄さんの店に就職する直前だったみたいだよ」夏輝は続けた。「実際その一つ下の彼って、おとなしい人だったらしいけど、積極的でもなかったみたい。いわゆる『草食系』ってやつ?」
「ふうん……」真雪はテーブルのチョコレートに手を伸ばした。「確かにリサ、うちに来て、時々言ってたな……進展してるのか、後退してるのか、停滞してるのか、状況がよくわからない。つき合ってる意味がよくわからない、って」
「リサも活発な方じゃないけどね。そんなあの子にそう言わせるほどだったんだね」
「で、結局どっちが振ったんだ?」
「彼の方らしい」
「何て言われたんだ?」
「そんなことわかんないでしょ。プライベートなことだし」
「でも、リサ、結構落ち込んでたよ」真雪が言った。
「好きだったのかな……、その彼のことが」
「好き、って言うか……、」真雪が窓から外を見ながら言った。「期待してたんじゃないかな……」
「期待?」
「少なくとも性格的に合わなかったわけじゃないみたいだし。これから愛を育んでいこう、って思ってたんじゃない?」
「なるほどね。リサの性格だったら、そうだね」夏輝がカップを手に取った。
「それで、今日はリサと良平さんのデートなんでしょ? しゅうちゃん」真雪がにこにこ笑いながら修平に顔を向けた。
「ああ。兄貴のヤツ、めかし込みやがってよ。今思い出しても笑っちまうぜ。わっはっは!」
「なんで知ってるの? しゅうちゃん」
「あのやろ、わざわざデート前に俺んちに見せびらかしに来やがったんだ」
「見せびらかしに、じゃないでしょ」隣に座った夏輝が横目で修平を睨んだ。「リサが好きな物とか、喜ぶことを教えて欲しい、って来たんじゃない」
「しゅうちゃんのお兄さんって、誠実なんだね」真雪が感心したように言った。
「小心者なんだよ。あいつは。昔からな」
「初めてのお泊まりデートなんだよ」夏輝がウィンクした。