気づかなかった想い-5
しばらくの沈黙があった。
「諦めがついた。それと同時に、」
良平の言葉が途切れたので、リサは思わず顔を上げた。
「今まで気づかなかったことに、ついさっき気づいた……」
「気づかなかった……こと?」
「僕は、貴女に惹かれている……」
「部長さん……」
「昨日まで別の女性とつき合っていた僕が、今日、貴女にこんなことを言う資格はないのかも知れません。でも、」
リサは良平のまっすぐな視線を受け止めながら、胸が熱くなっていくのを感じていた。
「貴女さえ良ければ、僕のことを『部長』ではなく『良平』と呼んでほしい……」
良平はすぐにうつむいた。
「……」
出し抜けに良平が顔を赤くして焦りながら言った。「ご、ごめんなさい! 突然変なこと、言い出しちゃって。何て都合のいいこと、言ってるんだか」
テーブルに置いてあったピッチャーから、もう一つのグラスに乱暴に水を注いで、良平は一気にそれを飲み干した。
「良平さん……」リサが小さな声で言った。「私も……気づいた……」
「え?」
「ご恩返しなんかじゃなかった……」リサは良平の手を取った。「私が貴男を元気づけようとしていた気持ち、それは恩返しじゃなくて、恋心だったんだって……」
「リ、リサさん……」良平は泣きそうな顔でリサの視線を受け止めた。「ぼ、僕なんかでいいんですか? し、しかもよ、酔ってるし」
「私も酔ってる。あなたに……」リサは悪戯っぽく笑った。「状況は同じです」
いきなり良平はリサの背中に腕を回し、抱き寄せたかと思うと、その口を自らの唇で覆った。
んんっ……
リサはうっとりしたように呻いた。
口を離した良平は赤くなってばつが悪そうに頭を掻いた。「理性は戻ってます。いやならいやと……」
「この段階でいや、なんて言えっこありません」リサも頬を赤く染め、良平の首に腕を回した。
「そ、それに、僕の息、酒臭いでしょ?」良平は今更のようにそう言って、ひどく申し訳なさそうな顔をした。
「じゃあ、」リサは良平の前に置かれていたグラスを手に取り、中に入っていたものをごくごくと飲み干した。
「リサさん!」
リサは口元を拭って、恥じらったようににっこりと微笑んだ。「これで私もあなたと同じ」
良平は再びリサと唇を重ね合わせた。どちらからともなく、二人は舌を激しく絡み合わせた。何度も交差させ直しながら、激しくお互いの想いを確かめ合った。