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雨の歌
【女性向け 官能小説】

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気づかなかった想い-4

 ――全裸のまま圭輔とベッドの上で抱き合っていた沙恵の枕元に置いてあったケータイが鳴った。

 沙恵は眠い目をこじ開けてそれを手に取り、開いた。その瞬間飛び起きて身体を起こし、彼女は覚悟を決めたように通話ボタンを押した。
「誰からだよ、沙恵」圭輔は不機嫌そうに顔をしかめて寝返りを打った。
「しっ!」沙恵は慌てて圭輔の言葉を遮ると、ケータイに向かって話しかけた。「ど、どうしたの? 良平」
「『良平』っ?!」圭輔も慌てて上半身を起こし、沙恵から身体を離した。

『気づかなくてごめんな、沙恵。別れよう』
「え? いきなり、ど、どうして?」
『想いが冷めた。それだけだ』
「りょ、良平……」

『ひとつ、聞かせてくれ』
「……」
『今、君の横にいる圭輔君と俺、どっちが遊びで、どっちが本気だったんだ?』
「え? あ、あの、りょ、良平」沙恵はひどく狼狽し、身体を硬直させた。

『ま、どうでもいいか。そんなこと。もう終わったことだしな』
「ご、ごめんなさい、りょ――」『俺は本気で君が好きだった。昨日も指輪を持って部屋を訪ねた。プロポーズするつもりだった。君は気づかなかったみたいだけど』

「あ、あたし……」沙恵の瞳に涙が滲んだ。

『稼ぎはまだ少ないけど、君といっしょに生きていけることを夢みてた』
「……」
『ごめんな、君の気持ちも確かめずに自分勝手にそんなこと考えちゃって』

 沙恵の頬を涙が伝って、ぽとりとシーツに落ちた。

『心配するな。君たちの邪魔をする気も、仕返しする気もないから。俺がそんなことができない小心者だってこと、君も知ってるだろ』

 沙恵は激しく嗚咽し始めた。

『合い鍵は近いうちに郵便受けに入れておくよ。もう僕とは顔を合わせたくないだろ』
「良平、あたし、あたし……」もう止めどなく沙恵の目から涙が溢れていた。
『最後に一言だけ、言っていいかな』少しの間があって、良平は小さな声で言った。『誕生日、おめでとう』

 ぷつっ……。通話が切られた。

「お、おい! 沙恵、ば、ばれたのか? もしかして?」
 ひどく焦りながら下着を穿き、圭輔はベッドの横に立ちすくみ、青い顔をしてうろたえた。

 沙恵はベッドに突っ伏して号泣した。


 良平はグラスに入った生の焼酎を、まるで薬を飲むような顔で一気に飲み干した。
「部長さん……」
 良平は置かれていた瓶を手に取り、底に残っていた焼酎をグラスに注いだ。その白い瓶は空っぽになった。彼はゆっくりと口元を手で拭って、悲しそうに笑顔をリサに向けた。「これで、あいつとの歴史は終わり。この酒を飲み上げたら、忘れる、って自分に言い聞かせてたんです」

 そう簡単にいくはずはない、とリサにも解っていた。彼の中に渦巻いている未練は彼の心を締め付けるだろう。自分がかつてそうだったように。しかし、さらに良平の心は、どこにもぶつけようのない嫉妬や怒り、悲しみといったものに容赦なく痛めつけられている。
 リサは良平には恩返しをしたかった。落ち込んでいた自分を元気づけてくれたこの男性に、今度は自分が恩返しをする番だ。

 リサはそう強く思った。

「部長さん……」
「なに?」
「私、貴男に何ができるんでしょう……」
「え?」
「貴男を元気づけたいです。貴男が私にしてくれたみたいに」

 良平はふっと笑った。「もう十分ですよ、リサさん。貴女がここに来てくれた時、僕はすっかり吹っ切れた」
「そ、そうなんですか?」
「うん。思えば沙恵への想いは、もう随分前から冷め始めていたのかもしれません」
「で、でも、プロポーズ……」
「なんかね、焦ってた。二年も交際して、自分ももうすぐ30になろうとしている。とにかく結婚するなら今だ、って訳もなく自分を追い込んでいたのかな。だから昨夜、あんな光景を見ても、今朝になったら怒りも収まってたし、悔しさもあまり残ってなかった」
「でも、圭輔さんには許せない、っていう気持ちになるんじゃありません?」

 良平は肩をすくめた。「逆にほっとした、っていうか……。あのまま僕が沙恵に指輪を渡してプロポーズしてたら、もっと泥沼化していた。そう思いませんか? だって、もう結構前から沙恵は圭輔とデキてたわけだし。ただ、」
「ただ?」
「僕が彼女と愛し合う時は、毎回必ず避妊してたのに、あ、ごめんなさい、生々しい話で」
「構いませんよ」リサは優しく言った。
「昨夜の圭輔は、何もナシに沙恵と繋がってた。それはなんか、すっごくイヤだった。」
「わかります……」
「きっと僕とのセックスでは満たされなかったんでしょう。沙恵は。二人がやってることも激しくて、僕なんかには到底真似できない愛し合いでしたから」
「そ、そうだったんですね」
「そう思ったら、やっぱり身を引くしかないでしょう? 今」


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