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雨の歌
【女性向け 官能小説】

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突きつけられた真実-3



 翌週の水曜日が沙恵の誕生日だった。
 丁度その日は、会社の企画会議が夜遅くまで計画されているので、良平は沙恵のマンションを訪ねることができない、と残念に思っていた。それでも、彼女へのプレゼントの指輪は、日曜日に迷いに迷って買った。沙恵の誕生石オパールが埋め込まれた金の細い指輪だった。

 閉店間際に事務所に納品書を取りにいった良平は、事務の社員から、企画会議が延期になったことを知らされた。
 良平は心の中でガッツポーズをした。
 すぐに沙恵に電話して、今夜プレゼントを渡しに行くと伝えたかったが、いきなりマンションを訪ねて驚かすのも一興だと思い、連絡するのを我慢した。

 店内の照明を落とし、事務所に戻った良平にリサが話しかけた。
「部長さん、何だか嬉しそうですね」
「え? そう?」
「何かいいことでも?」
「い、いや、今日の会議が延期になったから、早く帰れるって、単純にほっとしているだけですよ」

 リサは良平の顔を見た。「部長のその笑顔、私とっても好きです」
「え? 笑顔?」
「はい」
 リサはそう言ってにっこり笑った。「私も部長さんの笑顔にはいつも癒されてます。それじゃ、お先に。お疲れさまでした」
「春日野さんも、気をつけて」
 良平はリサの背中に手を振った。

 小さな雨が降っていた。
 従業員用駐車場に止めた自分の車に小走りで向かっていた良平は、フェンス沿いに植えられたひまわりに目をやった。夏の間、眩しく咲き誇っていたそれは、枯れてうなだれた姿を白い街灯の光の中に曝していた。

「ん?」

 良平は思わず立ち止まった。
 肩を落としたようなひまわりの根本に小さなコスモスの株を見つけて思わずしゃがみ込み、そのしなやかな茎にそっと手を触れさせた。

「こんなところに、コスモスが……」

 それはひょろりとした30aほどの丈で、先端には雨の雫をたたえた二つの花が寄り添うように風に揺られていた。

「こぼれ種で生えたんだな……。いつの間に……」

 良平は立ち上がり、車に向かった。


 マンションの駐車場は、三階の沙恵の部屋の窓の下にあった。良平はバッグの中のラッピングされた小箱を確認して、エンジンを止めた車の中から彼女の部屋の窓を見上げた。

 窓は暗かった。オレンジ色の暗い灯りの中に、ちらちらと赤や黄色の光が明滅している。

「またV系バンドのDVD見てるのか……」
 良平はため息をついて腕の時計を見た。針は九時半を指していた。


 エレベーターから出て、通路を進んだ良平は、沙恵の部屋のドアの前に立った。
「ん?」

 部屋の中から、耳障りなハードロックの音楽に混じって人の声がする。

「友達が来てるのかな。にしても、灯りはついてないし……」
 良平は耳を澄ませてみた。

「だ、だめ……」音楽の隙間に小さく聞こえる声。それは沙恵の声だ。

 良平の胸がざわめいた。

「あ、ああああ……」また沙恵の声。声と言うより喘ぎ声だ。

 良平はバッグから部屋の合い鍵を取り出し、音を立てないように鍵穴に差し込んだ。
 ゆっくりとドアを開けた良平の耳に、今度は男の声が聞こえた。

「おまえ、好きだろ、こういうの」

 良平は足下に視線を落とした。男性用の白いスニーカーが無造作に脱ぎ捨てられている。その脇には白い焼酎の瓶が二本。前回ここに来て見たのとは違うハイボールの缶も置かれている。そしてその缶のブルタブには黒と灰色の粉が押し付けられたようにこびりついている。

「あ、も、もう濡れてる、欲しい! あなたのが欲しいの!」
 もうはっきりと沙恵の声が聞こえる。玄関に続く小さなキッチンとバスルームへの入り口の先に、ドアに隔てられた沙恵の部屋がある。

 良平の全身は燃えるように熱くなっていた。彼は部屋のドアの前に立って息を殺した。そしてゆっくりと、小さくドアを開けた。

 バンドヴォーカルの嬌声が耳をつんざく。


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