穏やかな出会い-5
シャワーを浴び、沙恵と良平は全裸で一人用の狭いベッドに並んで横になっていた。
「久しぶりで、いっぱい感じちゃった……」沙恵は照れたようにそう言って良平の首に腕を回した。
「そう。良かった」
良平はにっこり笑った。そして彼女にキスをしようとした時、沙恵が小さな声で言った。「ねえ、良平、あたしといつ結婚してくれるの?」
良平は意表を突かれたように数回瞬きをした。「え?」
「一人でいるの、寂しいよ」
「ごめん。もうちょっと待てる? 俺もこの仕事長いから、来年あたり、昇格する予定だから」
「来年……」
「ほんとにごめん。もう少し我慢してくれ」
「……うん」
良平は沙恵といっしょに大きな枕に頭を沈めた。
「そう言えば」良平が仰向けになって天井を見つめながら口を開いた。
「なに?」
「圭輔君、今月で仕事辞めるんだ」
沙恵は横目でちらりと良平を見た。「圭輔君が?」
「うん。どんな事情かはわからないけど……」
「そうなんだ……」
沙恵は良平と同じように天井に目を向けた。
「彼は働き者だったし、手放すのは惜しいんだけどね」
「あたし、あの人苦手だったな」
「どうして?」良平は頭を傾けて沙恵の顔を見た。
「なんか、上から目線で話すし、タバコ臭いし」
「タバコ?」
「あたし、良平のホームセンターでバイトしてた時、休憩の後のあの人の息が我慢できなかったもん」
「そうだったんだ」
「それが理由であたしバイト辞めたってわけじゃないけどね」沙恵は笑った。
「今の仕事はどう?」
「コンビニって、けっこう仕事がマニュアル化されてるから、あれこれ考えなくて済むのは楽かも」
「でも、お昼時とか忙しいんだろ?」
「想定内の忙しさだからね。人から言われる程大変じゃないよ」
「そうか。身体壊すなよ、沙恵」
「うん。ありがと」
良平は沙恵の身体に腕を回した。
「あ……」沙恵は小さく声を上げた。
「沙恵……」良平は抱いた腕に力を込めた。
沙恵は身体を固くして良平から顔を背けた。
「沙恵?」
「今、危ない時期なんだ。」
「大丈夫だよ、ゴムつけるから」
「……ちょっと疲れてるんだ。ごめんね、良平」
良平は沙恵の目を見つめた。彼女は瞳を泳がせた。
「そうか……。ごめん、無理させちゃって」
「良平も仕事で疲れてるんでしょ?」
「沙恵と会えば疲れなんて忘れるよ」
「ふふ。嬉しい、良平」
「来週、君の誕生日だね」
沙恵は少し動揺して、困ったように眉を下げた。「お、覚えてくれてたんだね」
「当たり前だろ」良平は呆れたように笑った。「誕生日の夜は来られないけど、その次の土曜日にプレゼント持ってくるよ」
「ホントに? 嬉しい!」
それから、二人は静かに、じっと抱き合ったまま朝を迎えた。