〈哀肉獣・喜多川景子〉-4
――――――――――――
優愛が姉の景子の安危を思っていた同時刻……。
同じ家畜用監禁棟の別の部屋で、景子は麻里子ですら散るしかなかった陰惨な空間に、飲み込まれてしまっていた。
冷たい床には1メートル四方程度の大きさの、Hの形をしたレール状の金属の塊があり、その上には黒革に包まれたマットが張り付けられていた。
かなり重々しい塊……その上に眠らされた景子が座らされていた。
平行に並ぶレールの上に置かれた膝と足首にベルトが巻かれ、肩幅くらいの幅に脚を開いて拘束されていた。
上半身のスーツはそのままに、胸肉の上下に縄を回した後手縛りとされ、その掌は黒革の袋に包まれていた。
スカートを脱がされた下半身は、黒のステッチで縁取られた白いパンティーが、Yシャツの裾からチラチラと見えていた。
まるで許しを乞う罪人のように伏せる景子を取り囲む男達が数人……タムルとその部下達だ。
『呑気さんねえ……いつまで寝てる気かしら?』
タムルは景子の髪を掴むと、ぐいっと頭を持ち上げてその寝顔を覗き込んだ。
整えられた眉、切れ長な目、スラリと通る鼻筋、美しい桃色の唇……長旅でメイクは崩れていたが、それでもタムルの想像を超えた美貌で、思わず溜息さえ漏れた……その感嘆した微笑みは禍禍しい笑顔へと変わり、無防備な頬にタムルの張り手が飛んだ……。
「………う……はぶ…ッ!」
張り手の痛みに表情は少し歪み、瞼がピクピクと動き始めた……そしてゆっくりと開けられた瞳は、不潔極まる変質者の姿を捉えて見開かれた。
「はッ…!!……ここ……此処は…?」
一瞬、タムルの顔を見てギョッとした目をしたが、辺りを見回して今の状況を素早く理解すると、景子は平静を装い、無礼にも髪に手を掛けるタムルを睨みつけた。
あの卑怯者の金髪鬼から、新たな犯罪者に渡されただけ……ならばこんな徒党を組むしか能の無い奴らに、怯えたところを見せるわけにはいかない……景子は真っ直ぐにタムルを睨み、そして威圧的に目を細めた。
『……あら素敵……貴女、とっても素敵だわ……』
初めて直接に鼓膜を叩く声……この醜悪な顔に似合わぬ女性的な物言いに、嫌悪感はいきなり頂点にまで達していたが、そんな事は微塵も見せまいと景子は顎を引き、吊り上がった眉と目を一層鋭く見せながら、再び睨み据えた。
「……こんな縄とかベルトとか……何のつもりよ…?」
両脚は開いたまま動かす事も出来ず、両腕も上半身に密着させられて動かせない。
男が女に対して抱く欲望は一つしか無いと知りつつ、景子は凛としたままタムルから視線を外さない。
既に身を守る手段を断たれ、欲望を食い止める事も叶わぬ状態にされているのにだ。
『何のつもりですって?……そりゃあ貴女の身体を弄ぶ為よ……どんなお尻の穴をしてるかとか、どんなコトされたら悦ぶか調べ……』
卑猥な台詞を遮るように、景子はタムルの顔面目掛けて唾を吐きかけると、それは見事に額へと命中した。
泡立った白い粘体はドロリと垂れ、タムルの瞼にまで掛かろうとした……と、その垂れる唾をタムルは人差し指で拭い取ると、そのまま口へと運んで美味そうにしゃぶった。