〈哀肉獣・喜多川景子〉-3
「答えてくれないと殴るわよ……?」
少しだけ睨み、奈和は架純に詰め寄った。
それは決して架純が憎い訳ではなく、この状況から逃げ出したいと切羽詰まっていたからに他ならない。
『……私ね、手紙を出したの。だからもうすぐ警察が来てくれると思うの』
架純は奈和の威圧にも無反応で、一瞬だけ視線を合わせると虚空を見つめて囁いた。
それは現実なのか妄想なのか、区別のつかない言葉であった。
「手紙って…どうやって……」
奈和は気付いてしまった。
胸の膨らみの尖端が浮かび上がる水着は、身体の凹凸を隠す為の当て布さえ取り払われた物なのだと。
そして胸肉の上下で仕切られた布は数個のボタンで留められ、脱がす事なく弄べるようにされている事も。
それは股布にも当て嵌まり、切断された前みごろも、二つのボタンで留められているに過ぎない。
これは、あの気持ち悪いオヤジが架純の為に作らせた物だ……人形のように着せ替えを楽しみ、精神の病んだ架純を性欲の捌け口としているのだと奈和には直ぐに知れた……。
『この扉の向こうは“御主人様”の手下でいっぱいなの。出たら危ないわよ?』
「……!!」
架純の口から出た言葉に戦慄した刹那、扉が開かれた……その向こうには鶯色の作業着を着た屈強な男が立っており、ギロリと奈和を睨んでいた……奈和も、それを見た優愛も恐怖のあまり直立不動となり、呼吸すら忘れてしまうほどだった……。
『貴女達のトイレだって御主人様が渡してくれたわ……これ使ってね?』
「ッ!!!」
架純は作業着姿の男から“ある物”を受け取ると、それを床にコトンと置いて扉を閉めた。
奈和も優愛も、架純の御主人様からのプレゼントを見て泣き崩れ、冷たい床にへたり込んでしまった。
「もうやだ……家に帰りたい……」
「こ、こんなの嫌…嫌よ……」
それは白鳥の形をした“おまる”であった……幼児のように跨がり、排泄物の処理を第三者に任せる便器……トイレすら備わっていないこの監禁部屋は、自尊心を保つ者には地獄に等しい……その入り口に、二人は立たされたのだ……。