慚愧の桜貝 ☆-1
そんな恵利子が変質者による猥褻行為の被害に遭う。
ある日書店からの帰り道、それは幾つかの偶然が重なり合い不幸にして起きる。
しかし偶然の不幸はその日より、取り返しのつかない連鎖を引き起こしていく。
(何とか自宅まで我慢出来る)
書店を出た直後よりその予兆はあった。
後日恵利子は、書店のトイレを借りなかった事を後悔する。
潔癖症の恵利子にとって、共有スペースと言うのは微妙な存在であった。
特に共有トイレとなると衛生状態が悪く、薄暗くアンモニア臭たちこめる不潔な空間と言うイメージがあったのだ。
足早に帰途を急ぐも、折からの寒さが災いし拍車を掛ける。
暖房設備に不具合のあった書店に長居した為、足元から腰にかけ冷えてもいた。
その冷えも手伝い、下半身が刺激され切迫した状況に追い込まれる。
(何としても、自宅まで我慢しなくちゃ)
恵利子は苦渋の選択を迫られていた。
切迫した状況下、恵利子は公園前を素通りする事が出来なかった。
共有トイレよりも、微妙に感じる公衆トイレがそこには在った。
選択の余地が無い恵利子は、書店より自分の後をつけていた男の存在に気が付かなかった。
少女が公衆トイレに入る様子を、男は絶妙な距離を取りながら確認していた。
簡素な造りの公共建造物外壁に、身を寄せ聞き耳を立てる男に数秒の間隔で個室ドアが閉まる音が届く。
大胆にも男は周囲を見渡し、足音を潜め女子側トイレに平然と潜入する。
構造物内には個室が三つあり、一番奥個室のみ使用中である事が確認出来る。
男は後日別件の猥褻容疑で逮捕されるのだが、盗撮や猥褻行為の常習犯であった。
男の名は藤岡精児、以前から恵利子に対し偏執的な想いを寄せていた。
恵利子自身は気付いていなかったが、書店内で繰り返しスカート内を盗撮され跡をつけられていたのだ。
そこにタイミング良く人気無い公園トイレに恵利子が入れば、男の行動はおのずと見えてくる。
「声を上げたら殺す!」
個室より出ようとする恵利子に、ナイフが突き付けられありふれたセリフが囁かれる。
何とも三流の常套句であったが、お嬢様育ちの恵利子には十分過ぎる効果があった。
膝が諤々と震え腰砕けになり、男と共に個室に押し戻され洋式便座に座らされ密室状態になる。
「少しでも動いたら、ザックリいくぜ!」
その言葉が恵利子の恐怖心に更なる追い打ちをかける。
男は喉元にナイフを強く押し付けると、手際良くブラウスのボタンに手を掛けはじめる。
あまりの恐怖に全く抗えない恵利子は、その胸の膨らみを初めて他人にさらし触れる事を許してしまう。
白桃の様な胸元の膨らみが鷲掴みにされ、そのボリュームを確認する様に荒々しく揉み拉かれる。
愛らしい容姿にアンバランスな感触は、男の劣情をより大きく煽り立てる。
肌色に近い薄ピンク色をした乳頭部が、痛い位にキツク摘み上げられ玩ばれる。
激しい痛みが走るが恐怖が先にたち、恵利子の口元からは声が漏れる代わりに震えが止まらなかった。
(私…… わたし、死にたくない)
瞬時にそう思えるほどナイフは強くあてがわれ、その切っ先がいつ恵利子の体内に深く沈み込んでもおかしくなかったのである。
それは弄ばれる胸元への羞恥心を抑え付け、恵利子の抵抗を奪い去ったのである。
しかしそれは猥褻行為常習者である男の“妙”であった。
実際には切れ味鋭く見える光り輝くナイフは加工され、“ナマクラ”であったのだ。
少女を傷付けてしまっても何のメリットも無い。
更に言うならば猥褻行為に注力するあまり、誤ってナイフが少女を傷付ける心配すらある。
男の目的を考えれば、それは当然の思考の終着点であったのだ。
「はあ、はあ、はあ、はあぁっ」
恵利子の胸を揉み拉く男の息が徐々に上がり始める。
同時に陰茎に血液が集中し、ズボンの上からもその存在はハッキリと解る程になる。
男の行為への嫌悪感と恐怖、そして肌寒さから恵利子の全身に鳥肌が立ちはじめる。
(もっと嫌がっても良いんだぜ。そしてより畏れるんだ。俺はこの日を二年近くも狙っていたんだ。たっぷり楽しませてもらうぜ、えりこ)
その表情を見下ろしながら、男の視線の先は次の段階に移っていた。
ナイフの先端が喉元から胸元に移ると同時に、男の手がスカートの中に滑り込み指先がパンティーに掛かる。
「嫌っ! ダメ、絶対にダメ!」
恐怖に怯える恵利子も、流石にこれには抵抗を試みる。
しかし次の男の言葉に、恵利子の心臓は凍りつく。
「何度言ったら解る? 少しでも逆らえば迷わず刺す。俺は以前にも同じ事をして前科持ちだ。いまさら前科が増えても何とも思わない」
実際男は同様の行為を繰り返していただけに、その言葉の重みが十分な迫力を持って伝わる。