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もう君に会えない
【大人 恋愛小説】

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大好きだった人-1

気付けば、あんなに暑かった夏はいつの間にか秋の清々しい空気に変わっていた。


寝苦しかった夜は、薄手の毛布が必要になるほどヒンヤリしたものに変わり、買い物に出掛ければ茶色やグレーなど、少し重い色した服がズラリと店頭に並ぶ。


季節はそうして移ろいでいくのに、あたしはまだ気持ちの切り替えがうまくできないでいた。


久留米さんとは、廊下ですれ違っても挨拶すらできなくなった。


もう関わらないと言った彼は、再び鉄仮面男に戻って、淡々と仕事をしている日々を送っているようだった。


わずかな接点でも欲しくて、足繁く喫煙室に通っても、彼はもう二度とそこに足を踏み入れなくなってしまった。


これが彼の優しさなんだと思うようにしていても、やはり以前の楽しかった時間を思い出すと今の状況が辛すぎて、デスクについていても涙が出て来そうになることがしょっちゅうある。


公私混同はしたくなかったけれど、涙が勝手に滲み出てくるのだ。


何せ、ちょっと顔を県税課の方に向ければ、あの愛しい人が嫌でも目に入ってくるのだから。


以前と変わらず仕事に打ち込んでいる彼を見てれば、自分の想いの大きさだけがやけに不公平に思えた。


この状況はさすがに周囲も気付いたようで、天然クミちゃんですら、


「玲香さん、桑原くんに誰か紹介してもらうようお願いしましょうか?」


と、妙な気遣いを見せてくれた。


クミちゃんの励ます方向は明らかに間違っていて、それが妙におかしくて笑えた。


副島主幹は、久留米さんのことには触れず、あえていつも通りに振る舞い、あたしを笑わせてくれる。


二人があたしに気を遣っていたのは明白だった。


だからあたしも二人の前では馬鹿笑いなんかをして過ごす。


そうやって気を張っていても、やっぱり彼の姿を見かけると苦しくなり。


苦しくなるとわかっていても彼の姿を目で追ってしまうという堂々巡りを繰り返していた。







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