大好きだった人-7
……とまあ、表向きはそんな感じでカッコ付けてしまったけれど、他の人を思いながら別の男に抱かれる自分にほとほと嫌気が差したってのが本音だったりする。
久留米さんに振られたあの日の自分の軽卒な行動が、今でも悔やまれてならないからだ。
夜風にあてられくしゃみを一つした所であたしの身体がスポットライトを浴びた。
車が一台入ってきたのだ。
RV車の高い位置から浴びせられたヘッドライトに目を細めてそちらを見れば、見慣れたシルエットが小さく片手を上げているところ。
広いとは言えない駐車場を一度の切り返しで上手に大きな車を収めていく。
そんなハンドルさばきも大好きだったなあ。
ぼんやりそれを眺めながら、そんなことを思っていると、ライトが消え、ドアが開く音がした。
それを確認した所であたしはスマホを通勤用の茶色い革のバッグに無造作に押し込む。
「わりい、待った?」
「ううん、そんなに」
小走りでこちらに駆け寄る塁の姿は、ネクタイを少し緩めたスーツ姿のままだった。
久しぶりに見る彼の姿は、やっぱりあたしのタイプだなあ、とは思うけれどそれだけだった。
まるでテレビに出てくる俳優をカッコいいと思うだけの他人事みたいな視界。
前みたいに姿を見るだけで、胸が高鳴って、触れて欲しくて身体が疼く、あの劣情に似た恋心が沸き上がってこないことに、内心驚いていた。