大好きだった人-6
◇ ◇ ◇
あたしは、パリッとノリのきいた白いシャツに、ワインレッドの膝丈のタイトスカートという仕事帰りの出で立ちのまま、待ち合わせしたレストランの入り口の前で、突っ立っていながらスマホをあてもなくいじくっていた。
木の温もりが伝わるロッジ風の建物は、何度も塁と食事をしにきた大好きなお店。
さすがに夜風がピリピリ肌を刺すくらい寒くなった今は、オープンテラスは開放されていなく、寂しげに見える。
最後に塁とここに来たのは、このオープンテラスがお客さんで賑わっていた季節だったな、なんてことを思い出した。
そしてあたしは、本当に塁が食事をするために店を指定してきたことに驚いていた。
今までのパターンなら、コンビニとかコインパーキングなんかで合流して、あたしが塁の車に乗り、そのままいかがわしいことをするためだけに車を走らせるという流れだった。
少なくとも塁は、わざわざ付き合っていた頃に通っていたお店を指定するようなまどろっこしい真似をするような男じゃない。
もしかして、あたしの決意を察知でもしたのだろうか。
都合のいい女を手放すのが惜しくなって、ゴキゲン取りでもする気になったのかな。
でも、もう決めたんだ。
一途に芽衣子さんを想う久留米さんみたいに、あたしも自分の気持ちに誠実でありたい、と。