大好きだった人-4
『じゃあさ……』
「あ、あたし生理だから無理」
塁が誘う前に、あたしは先制攻撃を仕掛けてやる。
生理なんて嘘だけど、そうでもしないと流されそうだったから。
あたしがそう言うと、塁は一瞬言葉を失ったように黙り込んだ。
そして、呆れたように笑った彼は、
『バカ、ちげえよ。
そのお誘いじゃない』
とだけ言った。
何となくだけど、電話の向こうで塁が鼻白んだ顔をしているような気がした。
「じゃあ何よ?」
『いや……、飯でもどうかって思ってさ』
おそらく、あたしに断られるとは思っていなかったのだろう。
取って付けたようなお誘いが白々しくて、苦笑いになった。
それでも、単なるセフレと外で会うことをよしとしなかった塁が、こうやって食事に誘う事自体が珍しかったので、少々驚きは隠せなかったけれど。
「…………」
『おい、聞いてる?』
どうやら頭より身体の方がビックリしていたようで、受話器の向こうの塁の声が遠くなった所で、あたしは自分がスマホを持つ手をダランと下ろしていたことに気付いた。
「あ、き、聞いてた、よ?」
慌ててもう一度それを耳にあてる。
『さっきから挙動不審な、お前』
「だって……、ホテル以外で会うなんて別れてから初めてじゃん」
と冗談めかして言うものの、あたしは少し警戒をしていた。