大好きだった人-3
塁から連絡があったのは、久留米さんに振られたあの日以来だった。
抜け殻みたくなっていたあたしは、塁に逃げ場を求めることもできたのに、そんなことすら頭になかった。
塁の存在を忘れていた自分に驚きを隠せず、少し上擦った声を出した。
「も、もしもし?」
『何どもってんだよ』
クスクス笑う彼の声は、あの時と何も変わらない。
「あ、あの……久しぶりだから、びっくりしちゃって……」
『まあいいや、今日暇?』
「暇だけど……」
と言ってから、ハタと後悔する。
塁の“今日暇?”は、イコール体を重ねるということなのだ。
ふと思い出すのは、ラブホ街から出てきたときにバッタリ出くわした久留米さんの鋭い視線。
それは一瞬だけの表情で、もしかしたらあたしの勘違いだったのかもしれない。
でも、あの責め立てるような眼差しは“何やってんだよ”とでも言いたげだったように見えた。
久留米さんに振られてるし、あたしが何をしようが彼には関係ない。
でも……。
あたしはスマホを逆の耳にあてて目を閉じつつ、意を決したように息を吸い込んでから、電話の向こうに話しかけた。