大好きだった人-25
冷静に考えなくとも、久留米さんがあたしに電話なんて寄越すはずがない。
あれだけ避けられて、あたしに電話する理由なんてあるわけないし。
ちょっとヒロインぶってみた自分が何だか妙に恥ずかしくなった。
それでもお母さんからの電話が、さっきの怪しい雰囲気に水を差してくれたのは事実なわけで。
鼻白んだ顔になった塁とは対照的に、あたしは胸を撫で下ろしつつスマホの通話ボタンを押した。
どうせ、内容なんてわかりきってる。
仕事が終わってまっすぐここに来たあたしは、塁からのお誘いに驚いて、家に電話を入れるのを忘れていたのだ。
連絡しなかったことに対して嫌味を言って来るんだろうな、とため息を吐きながらあたしはスマホを耳にあてた。
――それが、あたしの運命を変えるきっかけになる出来事に結び付くとは知らないままに。