大好きだった人-24
静寂を破る、規則的な呼び出し音。
その音であたしはハッと我に返った。
足元を見れば、散乱したままのあたしのバッグの中身の中で、明るく光を放つ携帯電話が鳴り響いていた。
「……ちょっと、電話だから……」
塁の胸を押し退けたあたしは、慌ててしゃがみ込んで、散らばった私物をかき集めながら携帯に手を伸ばす。
あたしが噛んだ跡の残る手が、少しだけ震えていた。
……まさか。
また頭に浮かぶ、彼の顔。
久留米さんとよく話すようになってから、あたしが心臓をバクバクさせながら“連絡先聞いてもいいですか”と聞いた時の彼の姿が、目に浮かぶ。
クスクス笑いながらも、携帯を出してくれたっけ。
電話やメールで彼ともっと仲良くなりたかったけれど、毎日職場で顔を合わせるせいもあって、結局メールの一通すら出せないままで、終わってしまったけれど。
それでも着信音が鳴るたびに少しだけ期待してしまうのは止められなかった。
条件反射のように胸を高鳴らせ携帯を握りしめて、若干目の悪いあたしは顔を近付ける。
久留米さんが塁の誘惑に負けそうになっているバカなあたしを叱ってくれたら、きっとあたしはこの闇から抜け出せるはず。
あの低い声で、あたしの目を覚まさせて……!
……なんて、マンガみたいな展開があるわけもなく。
「……なんだ」
そこに表示されていたのは“お母さん”の文字だった。