大好きだった人-21
ああ、こうやって背中から抱き締めてもらうの、好きだったなあ。
やけに冷静に、今の状況を客観視している自分がなんだか滑稽で仕方ない。
「塁、ダメだよ」
あたしはそう言って彼の手を引き剥がそうとするけれど、慣れた手つきでゆっくりあたしの身体をはい回る。
肩を抱き締めていた手がゆっくり下降していくと、左手であたしの胸を掴み、右手がスカートの中に忍び込んでくる。
……ヤバい。
駐車場という人目につきやすい場所だからヤバいのか、久しぶりに男に触れられた身体が、疼いてヤバいのか、わからないけど、とにかくヤバいとあたしの中の何かが危険信号を発した。
身体にどんどん遠慮なく伸びて来る手。
この手はあたしの理性を吹っ飛ばすほどの威力を持っていることを知っているから、全力で阻止しなければならない。
なのに、彼の右手があたしのショーツの中に入ってきた瞬間、膝の力が抜けた。
「生理なんて、嘘じゃん」
クスリと塁が笑った。
「やめ……」
運転席のドアに手をついて、逃れようとするものの、力が抜けていくあたしと男の塁の力では、いくら抵抗した所でどうなるかなんてわかりきっていた。
「好きな男がいるって言ったって、ソイツもお前のことが好きなわけ?」
「…………」
痛い所を突く言葉の刃と、あたしの身体を知り尽くしたその手が、波状攻撃となってあたしを後戻りさせようと躍起になる。
塁は、あたしが抵抗しきれないことを知っているから、こうやって強気に出れるのだ。
「オレの方が、お前を愛してやれるんだよ」
さらに塁はそんなあたしの身体を無理矢理自分の方に向かせて、強引に唇を重ねてきた。