大好きだった人-2
◇ ◇ ◇
「お疲れ様でした」
今日も無気力な一日が終わろうとしていた。
あたしは自分のデスクを片づけてから、まだ机に向かったままの職員さん達に頭を下げた。
「お疲れさまー」
あちこちから、覇気のない労いの言葉が投げかけられる中、あたしは席を立つと出入り口に向かった。
チラリと県税課に視線を移すけれど、今日も彼はあたしの存在に気付かないまま、パソコンの画面を凝視している。
その姿に小さくため息を吐いてから、あたしはエントランスへと歩き始めた。
その途端に制服のポケットの中でスマホがブルブル震え始めた。
臨時職員のあたしは定時きっかりで上がれる。
この発信元の主はそれを知っていたから、終業のベルが鳴ったと共に電話をかけてきたのだろう。
あたしは慌ててそれをポケットから取り出すと、邪魔にならないように壁際に寄ってから、おもむろに耳にあてた。
『あー、玲香? 久しぶり』
声の主は、あたしが大好き“だった”男のもの。
間延びした、男にしては少し高めの声を聞きながら、“そういえば塁ってこんな声だったんだな”なんてぼんやり思った。