大好きだった人-17
ポツ、と涙があたしの頬を伝って手の甲に落ちる。
頬を伝っていた時は熱かった涙は、手に落ちた時にはすでに冷たくなっていて、まるで塁に対する気持ちを表しているかのようだった。
そうだよ、あたしはずっと久留米さんのこと考えてたんだ。
気持ちが届かなくても、ずっと頭から離れないで。
避けられても、姿を目で追ってしまう自分が情けなくて。
こんな時までもあの人のことばかりを考えている自分に、もう限界がきそうだった。
「ソイツが、お前の好きな男なのか」
塁の声で、ハッと現実に引き戻される。
慌てて目をごしごし擦って彼の顔を見たら、鋭い眼差しであたしをジッと見つめていた。
睨まれているようなその視線に耐えきれず、涙を拭った手を見つめるしかできない。
手の甲が黒ずんでいるのを見て、マスカラをつけていたことを思い出した。
今の自分はひどい顔になっているんだろうな、と思いながら、あたしは
「……うん」
と、下を向いたまま小さな声を出した。
まさか塁を振るなんて真似、自分がするなんて。
チラッと彼の顔を見上げれば、眉間にシワを寄せて考え込んでいる所。
少し濃い眉も、笑うと左側の口元だけ上がるクセも、プックリと弾力のある唇も、柔らかい髪の毛も、全てが大好きだった。