大好きだった人-16
コイツをずっと想ってきた今までの時間が、グラリとあたしの決意をぐらつかせ、それに負けないようにつま先に力を入れる。
パンプスの中で動く指が汗をかいていることに気付いた。
「おかしいよな、アズサは理想のタイプそのものなのに、欲しいと思うのはお前で。
なのになかなか連絡はこねえ、しびれを切らしてこっちから連絡すれば、何かを振り切るためにオレを利用してるみたいに抱かれてさ。
さんざん他に男ができればいいのにって思っていたくせに、いざお前が他の男のこと考えてるんじゃねえかって思うとどうしようもなく焦ってきて……」
ひどくざわめく胸が、なんだか自分の身体じゃないみたいに勝手に暴れだす。
塁の本心を知れば知るほど、彼の姿がなんだか陽炎のように揺らめいて、ピントが合わなくなってくる。
ああ、そうか。
あたし、泣いていたんだ。
でも、何に対して?
やり直そうって言われて嬉しくて?
散々あたしをコケにしてきたことがわかって悔しくて?
彼女と別れたからって、すぐに都合のいい女の所に逃げ込む塁がムカついて?
自分の気持ちがわからないまま咄嗟に出たのは、
「久留米さん……」
と言う弱々しい声だった。