大好きだった人-15
その苛立ちをただ単に塁にぶつけているだけの、子供じみた八つ当たりってのは充分わかっている。
「まあ、そう思われても仕方ねえよな」
口を少しだけ開いた彼は、少し悲しげに眉を下げていた。
「だから、今さらそんな上手い言葉であたしを惑わせないでくれる?
やっと、あんたから離れられそうになったってのに……」
「……惑わせてなんかいねえよ、オレはマジで言ってんだ」
「だってあの彼女……」
「アズサとはもう別れたから」
あたしの言葉を最後まで聞かないで、塁はきっぱりと言った。
「失って初めて気付くことってあるだろ?
オレ、お前と別れた直後はとにかくこの束縛から離れられるって喜んでたけど、それでもしつこく食い下がるお前に正直うんざりしてたんだ。
だったらお前をセフレにして、好きな時に好きなようにヤッて、ひでえ男だと思わせとけば自然とオレから離れていくだろうって思ってた」
「…………」
「んで、オレはオレで別の世界で新しい恋でも始めようって思ってアイツと付き合い始めたんだけど……。
ちょうどその頃かな、あれだけ会いたい会いたいうるさかったお前からの連絡がなくなったことに気付いて、なんか胸にポッカリ穴が開いたみたいになって。
でも、オレには彼女がいる。幸せなはずだ。そう何度も自分に言い聞かせてたんだよ。
なのに、ふとした瞬間お前のことが頭によぎるんだ。
アズサは可愛いし、優しいし、一緒にいて楽しいはずなのに、勝手に思い出してしまうんだ。
会えばヤることしかしてこなかったくせに、お前が言うちょっとした冗談とか、風呂に湯をためててくれる小さな気遣いとか、そういう些細なことが」
塁の一言一言が、あたしの心を揺さぶり始める。